「高輪ゲートウェイ駅」(2020(c)東日本旅客鉄道株式会社)
「高輪ゲートウェイ駅」(2020(c)東日本旅客鉄道株式会社)
「隈研吾×Takram 東京計画2020:ネコちゃん建築の5656原則」(2020(c)Kengo Kuma and Associates(c)Takram)
「隈研吾×Takram 東京計画2020:ネコちゃん建築の5656原則」(2020(c)Kengo Kuma and Associates(c)Takram)
「隈研吾展」の展示風景((c)Kioku Keizo)
「隈研吾展」の展示風景((c)Kioku Keizo)
「高輪ゲートウェイ駅」(2020(c)東日本旅客鉄道株式会社)
「隈研吾×Takram 東京計画2020:ネコちゃん建築の5656原則」(2020(c)Kengo Kuma and Associates(c)Takram)
「隈研吾展」の展示風景((c)Kioku Keizo)

 日本を代表する建築家隈研吾さんが意図してきたのは、国内外で「人がおのずと集まる」新たな公共性をどうつくるか。鍵となるのは意外にも「ネコの視点」という。東京国立近代美術館の「隈研吾展」は、近代建築が置き去りにしたものを取り戻そうとする、建築家の思考をたどる。

 会場に置かれた建物模型のあちこちに小さな「ネコ」の姿がある。新型コロナウイルス禍の中、隈さんは自宅のある東京・神楽坂の街を歩き、路上のネコから「多くを学んだ」という。「孔」「やわらかい」「斜め」など、ネコにとって親しみ深い「5原則」から建築の公共性を読み解く。

 例えば、鉄骨に木材を融合させた東京の高輪ゲートウェイ駅。建物を貫く洞窟のような穴で市街と川をつなぐスコットランドの美術館V&Aダンディー。表面が柔らかければよじ登れる。穴には別世界に出る楽しみが宿る。ネコが気に入るなら、「か弱い動物に他ならなかった」とコロナで思い知った人間にも心地が良いということだろう。

 公共空間は「地域にとってのお茶の間」だと隈さん。「その地域らしい素材で、地域文化を大切にした空間を用意しないとくつろげない」。新潟の交流型市役所「アオーレ長岡」はその代表格だ。半屋外の屋根付き広場になっている中庭には、地元の木材や絹織物が多用され、木漏れ日のような光が降り注ぐ。時にフードカーなども並び、市民らのコミュニケーションの場になっている。

 展示後半ではデザイン事務所「Takram」と協力し、好みの隙間や茂みを周遊するネコの生態に衛星利用測位システム(GPS)で迫り、「公共空間」「私空間」の区分を乗り越える考え方を提示。近代建築の巨匠ル・コルビュジエによる「近代建築の5原則」や、丹下健三さんの「東京計画1960」へのアンチテーゼという隠しテーマも見えてくる。

 「コンクリートと鉄でできた同じような建物を世界中に建てた結果、公共建築や公共空間をつくったつもりが、寂しい、空虚な空間にしかならなかった」。「肌触り」のような感覚は置き去りにされ、人は幸せにはならなかったと説く。

 それらは簡単には壊せないが「ネコの原則を使えば、ちょっとした手直しや操作で都市を楽しく変えられるんじゃないか」と隈さん。現実的でしたたか。同時に自由なアプローチは、これからの都市を考えるときの大きなヒントになりそうだ。