松江城で観光客を案内する松江市ボランティアガイドの会メンバー=松江市殿町
松江城で観光客を案内する松江市ボランティアガイドの会メンバー=松江市殿町

 新型コロナウイルス禍で山陰両県でも観光客が減る中、ボランティアガイド団体が人手不足に苦労する。団体客でも少人数に分けて案内し、人手を割かれる一方で、活動できないメンバーがいるからだ。背景にあるのは感染防止。活動の機会が減ってガイドの養成もままならない中、アフターコロナを見据えた態勢立て直しは悩みが深い。 (古瀬弘治)

 「400年前から現存する天守です」。1日、松江城で「松江市ボランティアガイドの会」メンバーが県外客に見どころを説いた。約1時間のコースで天守や石垣の特徴を解説。高知県から訪れた50代男性は「話を聞いた方が見ているより興味がわく」と喜んだ。

 日曜に行う無料ガイドの活動実績は2021年度、7月1カ月で34回(75人)。前年とほぼ変わらない。7月下旬の4連休には松江城周辺に大勢の入り込みがあり、客が戻ってきた実感はあるが、それでも活動が増えないのは、緊急事態宣言が発出された地域などからの客の案内は断るからだ。1日も何人か断った。引野律子会長(72)は「せっかく来てもらったのに心苦しい」ともどかしがる。

 島根県内の小中学校の修学旅行先に選ばれるようになり、新たな活動の機会が生まれてはいる。悩みの種は人手の確保。コロナ禍での観光は、多人数の団体客でも少人数に分かれての行動が定着しつつあり、その分、人手が必要になる。

 一方、74人の会員からは「感染してしまうのではないか」との声もあって活動が一部会員に偏り、11月末まで新入会員を募集中。活動の機会が減る中、会員をつなぎ留めようと研修会も開いた。引野会長は「活動できないことが意欲の低下につながりかねない」と心配する。

 山陰両県12市の観光協会などによると、ボランティアガイド団体は20団体ほどあり、計約300人程度のガイドがいる。コロナ禍で活動の機会がなくなったり、両県民しか受け入れなかったりと状況は同様だ。

 コロナ禍が沈静化して観光需要が戻れば、全国各地で客の取り合いが予想され、案内の質の向上は欠かせない。経験を積み、ガイドの腕を磨く機会が減ったことを不安がる声もある。

 「益田観光ガイド友の会」は20年度の拠点活動の実績が273人で、19年度の5割近くに減った。市内4カ所のスポットを案内してきたが、うち1カ所が観光客受け入れを中止したことも響いた。

 岩本節雄会長(73)は「案内は経験を積み、うまくなる。その経験の場が減った」と懸念。9月からは新コースの策定に取り組むといい、経験とともに技術の維持向上に腐心する。