詩人や歌人にとって最大の誉れは、名前が残ることより作品が残ること、自分が生み出した詩句が多くの人に愛誦されることではないだろうか。

 北原白秋(1885~1942年)はそれに成功した詩人といえるだろう。私は旅先で「この道はいつか来た道」と口ずさんだり「からまつはさびしかりけり。たびゆくはさびしかりけり」と小さな声で言ってみたりすることがある。そのとき、いちいち「これは北原白秋作」だと意識しない。それはすてきな...