まるで群れをなした「怪鳥」に見えた。太平洋戦争末期の東京上空は連日、米軍の爆撃機B29が飛び交い、空襲は日に日に激しさを増した。
焼夷(しょうい)弾で赤く染まった夜空の下、都内の女学生宿舎の部屋の中で黒い布をかぶせた電気スタンドからこぼれる光が本のページを照らしている。米国人作家マーガレット・ミッチェルが南北戦争を描いた『風と共に去りぬ』。東京女子大の学生だった森英恵は物語の世界に夢中だった。
戦中の若者にとって数少ない楽しみが読書。学校の図書館から森の元にたどり着くまで幾人の手を渡ったことを示すように、表紙は傷みきっていた。戦争に巻き込まれながら果敢に生きる主人公スカーレット・オハラに憧れ、勇気づけら...