菅義偉首相が地元・横浜市長選で全力支援した小此木八郎前国家公安委員長の惨敗を受け、自民党内で「菅降ろし」の影がちらつき始めた。目前の衆院選を戦う「選挙の顔」を不安に思う議員心理が根底にある。だが新型コロナウイルスが猛威を振るうさなかの政権運営が難しいのは間違いなく、総裁レース参戦をためらう要因となる。
発言でけん制
「大変残念な結果だ。市民がコロナ問題、さまざまな課題について判断された。謙虚に受け止めたい」。市長選から一夜明けた23日朝。首相は政府のコロナ対応が敗因となった可能性に触れた。
戦いは厳しかった。小此木氏が野党系候補に勝ったのは、市内18区のうち衆院小選挙区の地盤に含まれた鶴見区のみ。首相の選挙区に重なる三つの区は野党系候補が制した。結果を見た若手は「総裁選先行しか自民党が生き残る道はない」と自らに言い聞かせた。
閣僚経験者は、コロナ対応で国民が不信感を募らせる首相の総裁再選は「プラスに働くとは思えない。自民党を守るか、内閣を守るかという話だ」と表情を曇らせた。党内には首相交代論がじわりと広がる。
状況を察知してか、首相は23日朝、改めて総裁選出馬意欲に「変わりはない」と言い切った。党内をけん制する思惑があったとみられる。自信の背景にあるのは二階俊博幹事長や安倍晋三前首相ら重鎮からの続投支持だ。二階氏は23日、党本部で二階派幹部と意見交換後、不安を振り払うように「再選支持は当たり前だ」と気勢を上げた。
火中の栗拾う
局面転換を狙う総裁選で党内の関心を集めるのが岸田文雄前政調会長だ。党関係者は「無投票再選は最悪。挑戦する人がどんどん出てほしい」と期待する。
岸田派(宏池会)の19日の会合では「今こそ宏池会の神髄を天下に鳴り響かせてほしい」と主戦論が相次いだ。
ただ岸田氏の従来戦略は、安倍氏や麻生太郎副総理の支援を得た総裁選勝利。現状では見通せていない。23日も、総裁選日程が決まる26日以降に態度表明するとして側近らと状況分析を重ねた。
総裁選に過去4回挑戦した石破茂元幹事長の動向も注目だ。党員からの抜群の人気が強みだが、議員票の課題は残ったまま。昨年の総裁選惨敗で派閥会長を引責辞任し、メンバーも17人に減った。推薦人20人の確保が一つ目の関門となる。
党内では他に下村博文政調会長、高市早苗前総務相が出馬意欲を示すが、推薦人が集まるかどうかは不透明だ。
菅首相に近い議員は「コロナが続く限り、首相を目指すのは火中の栗を拾いに行くようなものだ」と二の足を踏む党内情勢を解説してみせた。