小学2年の娘の手を両手で包み込む関西地方の女性。学童保育からの帰り道はいつも手をつなぐ=7月
小学2年の娘の手を両手で包み込む関西地方の女性。学童保育からの帰り道はいつも手をつなぐ=7月
コロナ禍が女性に与えた影響
コロナ禍が女性に与えた影響
小学2年の娘の手を両手で包み込む関西地方の女性。学童保育からの帰り道はいつも手をつなぐ=7月
コロナ禍が女性に与えた影響

 新型コロナウイルス禍は女性に深刻な影響を与えた―。2021年度の政府の男女共同参画白書はこう分析した。平時には見えづらかった構造的問題が次々露呈。特に非正規労働の女性が経済的にも精神的にも追い詰められていった。

 「お金や食料の援助はありがたいけど、先が見えないのがつらい」。7月下旬、カーテン越しに日が差すアパートの一室。関西地方で暮らす女性(49)がうつむく。「人生、もう終わりにしたいと思う時もある。目をつぶって、このまま消えさせてと…」。震える声をのみ込んだ。部屋の隅の写真では、2人の子どもが屈託なく笑っていた。

▼自転車操業

 5年前、夫の暴力から逃れ、8歳と3歳だった息子と娘を連れて保護施設に入所した。離婚し、派遣社員として大手製造業の事務の仕事を始めたが、手取りは月10万円止まり。養育費も途絶え、切り詰めて子どもに使うお金を捻出した。比較的安定した直接雇用の契約社員になり、施設退所を決めた2020年3月、新型コロナウイルス感染拡大の影響が襲った。

 週5日勤務のうち1日が休業に。休業手当は出たが「もっと働き、稼ぎたい」との希望はかなわない。政府の給付金や社会福祉協議会の貸し付けは瞬く間に消えた。毎週末、支援団体が配布してくれる食料が頼りだが「自転車操業がいつまで続くのか」と不安が募る。

 正社員の職を探したこともある。だが、ハローワークの担当者は希望職種を何度伝えても、年齢と性別だけで「介護や保育の仕事ならある」と繰り返した。「男性にも同じことを言うだろうか」。次第に足が遠のいた。年が明け、事務職から工場勤務に配置換えされた。機械に囲まれ、慣れない手つきでねじを回す。「なんでこんなことをしているのだろう」との疑問が頭を離れない。

 今年3月、小学校の卒業式。同級生が華やかに着飾る中、母の古着で臨んだ息子は、隠すようにダウンジャケットで身を包み、フードを深くかぶった。「恥ずかしい思いをさせた」。翌朝、女性は起き上がれなくなった。適応障害と診断され、その後3カ月休職した。

 働く女性の半数以上は所得が低い非正規労働者だ。コロナの打撃が大きい宿泊・飲食業などで働く割合が高い。総務省調査では、最初の緊急事態宣言が出た20年4月、女性の非正規は前年同月比で約71万人減少し、多くが職を失った。男性の減少幅は26万人にとどまる。雇用環境の悪化は、精神的ストレスにも直結する。20年の自殺者数は女性だけが増えていた。

▼見つめ直す

 中でも子育て世帯は窮地に陥った。貧困家庭を支援するNPO法人キッズドアが4月、約2千人に行った調査では、78%がコロナで減収し、半数が「家族の食べ物が買えないことがあった」と答えた。渡辺由美子理事長は「困窮女性の多くは長時間働いている。なのに貧困なのが最大の問題」と強調する。政府による支援策を知らない人も多く「新聞やテレビを見る余裕がなく、パソコンも持たないため情報弱者になっている」と危ぶむ。

 同法人は、資格やスキルを学ぶ通常の就労支援とは少し違う全6回のオンライン講座「わたしみらいプロジェクト」を実施する。自分の夢を描くところから始め、生活状況に合った職探しや履歴書の書き方などを学ぶ。担当の町田裕輔さんは「自信を失った人は、教材や求人情報を並べるだけでは動きだせない。自分を見つめ直すところから伴走が必要だ」と話す。

 7月の金曜夜に開かれた講座には約30人が参加。講師が明るい声で「自分の強みと弱みを考えてみよう」と呼び掛けていた。前半は画面上に顔を映さず、つい弱みの方が口をつく参加者たちは、終了前には半数近くが顔を映し、笑みもこぼすように。今春開催の第1期には約50人が参加。正社員への道を開いた人もいる。関西地方の女性も第1期で自分の気持ちを整理し、上司と話し合って事務職復帰をかなえた。

 先が見えない状態は続くが、女性はもう一歩踏み出し、食料支援の団体を手伝い始めた。弁当を手渡す時には、できればちょっとした話をしたい。「次は私が誰かの支えになれたら」。それが今の夢だ。