新型コロナウイルス禍で長引く巣ごもり生活。近隣や家族と接する機会が増え、身近な人との関係に悩む人もいる。できればトラブルは避け、深刻化させたくない。人間関係の修復法「メディエーション」の専門家で、東京メディエーションセンターの代表、鈴木佑輔さんに留意点を聞いた。
―メディエーションとは。
「問題の当事者が互いの意見を出し合い、解決策を探る手法です。私は中立の立場でその手助けをする『メディエーター』として、騒音やペットの臭い、ごみ捨てトラブル、離婚の問題などに取り組んできました。裁判官などの権威に頼らない、いわば民間の調停です」
―その利点は。
「裁判のように勝敗を決めず両者で結論を出すため、納得感を得やすく感情的な対立は残りにくい。近所や家族、学校や職場など問題の後も関係が続く場合に有効です」
―強制力がなくても解決できるのか。
「無理にトラブルの原因を除去しても長続きしないばかりか、相手への負の感情が膨らみ真の解決にならない。逆に原因は残っていても、話すことで相手への理解が深まれば、感情や関係を改善するきっかけになり得る。目先の現象にとらわれ過ぎない方がいいのです」
―例えば?
「家事をしない夫に不満を募らせ、離婚まで考える妻は珍しくない。家事分担の問題と思えるが、互いに話してみると、妻が『自分をないがしろにされている点が最もつらい』という、背後の感情が見えてくる。その気持ちを夫婦で共有することが重要で、それなくして分担しても意味がない」
―原因がある相手に、どう関わればいいのか。
「例えば隣家に騒音の苦情を伝える場合、『静かにしてほしい』と要求する言葉は控える。自分を主語にして『眠れず困っている』とか『子どもの受験勉強に支障が出ないか心配』などと、心情を伝えた方が相手の心に響きやすい。人の行動を変えるのは往々にして法やモラルより、気持ちを動かす言葉掛けです」
―問題に無関心のような相手もいる。
「直接話してみると起こる変化があり、意外と糸口が見えてくる。すぐに問題が片付かなくても互いの事情が見えてきて、相手や問題の捉え方が変わることがあります」
―面と向かって話ができない関係もある。
「慎重さが必要だが、第三者に入ってもらうのも一案。冷静に話せる時を見つけ、思い切って気持ちを言葉にしてみる。我慢し続けて、相手への負の感情をため込むだけでは事態は変わりません」
▼考え方知るだけでも
マナーや習慣などを巡って身近な人との間で起こるトラブルは、法的に解決する性質の問題ではなくても当事者には切実だ。メディエーションはそんな地域の課題解決に適した手段として、主に欧米で発展してきた。
鈴木佑輔さんは「警察や役所には持ち込みにくいため、我慢している人は少なくない。トラブルに至る前での相談も多く寄せられます」という。
米国などではNPOや公的な機関で活用されてきたというが、日本では発展途上。「実際に利用しなくても、メディエーションの考え方を知るだけで参考になるはずです」
すずき・ゆうすけ 1980年生まれ、東京都出身。都内のボランティアセンターのコーディネーターを経て、英国などで人間関係を修復する手法「メディエーション」を学ぶ。2019年から現職。近隣トラブルや家庭不和などの相談や解決支援に取り組む。















