「第38回東京国際映画祭」で10月30日、最新作『TOKYOタクシー』(11月21日公開)を控える山田洋次監督と、歌舞伎役者の生を描いた大ヒット作『国宝』(公開中)の李相日監督による対談イベントが行われた。壇上で山田監督は『国宝』について「堂々たる大作。普通の三角関係にはならず、2人の男のあいだに“芸”と“血筋”という不条理が横たわる。その苦悩を劇のモチーフに昇華している点が見事」と高く評価した。
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山田監督は物語構造に触れ、「この作品は二人の男の物語が柱ですね。通常、男性二人が主軸になる場合、その間に女性が介在して三角関係のような構図になることが多い。けれどもこの映画はそうではない。その代わりに、二人の間に“芸”というもの、そして“血筋”という、どうにも抗えない不条理なテーマが介在している。そこを正面から描いたところが、この映画の非常に優れている点であり、そんじょそこらの作品とはまったく違うところだと感じました」と絶賛した。
これに李監督は「原作者の吉田修一さんの発明です。2人を置くことで“芸と血筋”の対立軸が立ち上がった。それをどう展開し、どう着地させるかが難しかった。物語の真ん中に“芸”がある以上、嫉妬や裏切りといったことよりも、芸に身を捧げる二人が、苦しみを分かち合い、結びついていく“美しさ”が、終盤に訪れるようにしたいと考えていました」と応じた。
続けて、「二人の人生はまるでシーソーのようで、どちらかが上昇しているときは、もう一方が地べたを這うような状況にある。その浮き沈みが入れ替わるように訪れてくる。二人は自分たちの力だけでは抗えない“しがらみ”の中でもがきながら、最終的には同じ風景を共有していく――。それが、女形というミステリアスな存在を通して表現されることで、“芸”というものの高みや美しさがいっそう強調されていくのだと思います」と話した。
山田監督は「女性をめぐる嫉妬や奪い合いのようなものがあれば、物語はもっと単純になったかもしれません。しかしこの映画はどちらかが女性を“獲得する”話ではない。どうしようもない問題を背負いながら苦しむ――そのドラマがあるからこそ、この映画は“普通の映画”とはまったく違うものになった」と評した。
女形表現の完成度にも言及した山田監督は「簡単に身につくものではないのに、よくここまで」と舌を巻いた。
李監督は「稽古期間は約1年半。撮影中も続きました。日本舞踊の“すり足”から始めたんですが、最初の数ヶ月は『撮影に間に合うのかな』と心配になるほどでした。二人(吉沢亮・横浜流星)とも非常にストイックでした。結果的に“二人”だったことは良かったのかもしれません。お互いを見ながら、『相手のほうが進んでいる』と感じる瞬間があって、それが刺激になっていたと思います。稽古の時間そのものが、役同士の関係を自然に築いていく過程になっていたと思います」と振り返った。
さらに、山田監督は「“(歌舞伎の)舞台の撮り方”が非常に印象的でした。斬新というより、むしろ普通なら絶対にやらない撮り方をしている」と指摘。「基本的に舞台を撮るときには“約束事”があるんです。カメラは観客側から舞台を正面に見る――という構図。でも、『国宝』はそこをまったく恐れず破っている。カメラが役者の側に回り込み、役者の“目線の向こう側”に観客が見える。でもその理由が明確で、舞台上の役者の感情を捉えたいという意図があるからこそ、違和感がない。これがとても珍しく、しかも見事に成立しているんです。観客にとっても新鮮だったと思います」と話していた。
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