中国電力島根原発2号機(中央)、左は1号機、手前は3号機=松江市鹿島町片句
中国電力島根原発2号機(中央)、左は1号機、手前は3号機=松江市鹿島町片句

 中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)が15日、原子力規制委員会の審査に正式合格した。全国で唯一、県庁所在地にある原発で、原発から30キロ圏内には全国の原発立地地域で3番目に多い約46万人が暮らす。山陰両県民に受け止めについて聞いた。
 質問内容は
①正式合格した受け止めは。原発の安全性についてどう考えるか?
②再稼働することへの賛否は?
③いずれの場合でも、原発の存在に対する不安はあるか?
④自分自身の広域避難先を知っているか?
⑤今後、自治体のトップが再稼働の賛否を判断する上で、何を求めるか?
⑥中国電力、政府、自治体への注文は?

中国電力島根原発2号機(中央)、左は1号機、手前は3号機=松江市鹿島町片句

プロの判断、受け止める
 日本棚田百選の一つ「山王寺棚田」の保全や現地で米作りに取り組む、雲南市大東町山王寺の農業の高木健次さん(69)
 ①原発に関わるプロの判断なので、再稼働については受け止める。ただ、福島県の事例を振り返ると、万が一のことがあったときに棚田の保全活動や米作りという生きがいが途絶えてしまうという不安はある。避難先に棚田を持って行くことができれば良いが、当然そんなことは不可能。だからせめて避難先の生活でも農業ができる保証はしてほしいと思う
 ②賛成だ。自分たちの生活に電気は無くてはならない。止めろと言うのは簡単だが、少なくとも電気に取って代わるようなエネルギーは思いつかない。関西や広島から持ってくれば良いという意見もあるが、それはそれで料金引き上げの問題なんかも出てきて余計に生活が苦しくなると思っている。
 ③棚田の保全活動や米作りという生きがいが途絶えてしまうという不安はある。だからこそ事故が無いよう安全管理は徹底してほしい。事故が起きたときに情報開示するのではなく、普段からもっと情報提供をしてもらいたい。米作りへの放射能の風評被害については、そもそも避難して戻ってきたときには自分も米作りができない年だから考えていない。ただ、棚田の保全や米作りを引き継いでくれる人がいた場合にやっていけるよう、被害への補償はしっかりやって欲しい。
 ④知っている。プロの人たちが考えた計画なので信頼はしているし、実効性もあると思っている。ただ、ペーパー上で示されていても実際に事故が起こったときは必ずみんな慌てる。現実はどうなるのかという不安は拭いきれない。
 ⑤とにかく安心・安全の徹底。雲南だけでなく、安来や出雲、鳥取県との話し合いや協力をした上で判断してもらいたい。
 ⑥安心・安全の徹底だ。政府についてはコロナで莫大な予算を使っているので何かあったときに原発のカバーに回せる資金があるのかという不安はある。

広域避難訓練で、参加者がバスに乗り込む前に安定ヨウ素剤を想定したあめを手渡す松江市の担当者(左)=松江市鹿島町片句(資料)

使用済み核燃料をどうするのか
 安来市原子力発電所環境安全対策協議会(会長・田中武夫市長、委員33人)で委員を務める、安来市広瀬町奥田原の自営業の戸谷豪良さん(54)
 ①福島第1原発の事故の印象が強く残っており、できれば再稼働してほしくないというのが本音だ
 ②どちらかといえば反対。とはいえ電気は必要。自然エネルギーへの転換をさらに推進し、われわれ国民も省エネに努めるなどできることから努力しないといけない。
 ③不安はある。再稼働したとしても、施設・設備は年々老朽化する。将来、廃炉になった場合、使用済み核燃料をどうするのかという課題も残る。
 ④知っている。いざというとき、現行の避難計画が本当に機能するかどうか不安はある。放射能が広がるような事故が発生した場合、避難バスは本当にこの地域まで迎えに来られるのだろうか。勤務先が松江、米子といった住民の場合、避難先が家族バラバラになる可能性もある。奥田原地区には30キロ圏外の住民もいるが、安来市内の多くの住民が避難した場合、残された地区住民のライフラインは大丈夫なのか、実際に生活できるのかは疑問。
 ⑤なぜ原発を再稼働させないといけないのか、今再稼働させる必要があるのか、地域の実情も踏まえ慎重に判断してほしい。
 ⑥中電には、検査や巡視といった安全に関わる業務を怠るのは許されない。安全確保に最善を尽くしてもらうしかない。原発で働く人たちの安全についてもしっかり確保してほしい。政府には、原発推進の政策ではなく、再生可能な自然エネルギーに力を注いでほしい。自治体には、行政と住民が万一に備えて危機意識をしっかり共有し、高める必要がある。避難計画を含め、市民が原発について考える機会と、その材料となる情報提供に努めてほしい。

島根原発の避難訓練で、岡山県に避難するためバスに乗り込む人たち=2018年10月30日、松江市(資料)

 

事故が起こらないよう管理に努めるのであれば
 若者の政治参加促進に取り組む島根大のサークル「ポリレンジャー」の代表で、島根大法文学部3年の澤田香純さん(21)=松江市西川津町=
 ①福島第一原発事故時は、不安が強く原発を稼働すべきでないと考えていた。だが、その後管理体制を見直したと聞く。事故が起こらないよう管理に努めるのであれば稼働してもよいのではと思う
 ②どちらかといえば賛成。電力の安定供給には原発の寄与が大きいだろうから。とはいえ、原発に頼るだけでなく、自然エネルギー活用を進めることも大事だと思う。
 ③もし事故が起きたら命に関わる。また放射性物質の人体への影響は強く、後遺症も残ると聞くので、原発の再稼働には不安もある。
 ④一応知っている。だが大学周辺で過ごすことが多く、遠く離れた避難先の土地勘がないので、イメージがわきにくい。実際の体験に近いシミュレーションの機会があると良いと思う。
 ⑤再稼働するにせよしないにせよ、原発に対しては多様な考えを持つ人がいる。若い世代にとっては将来に関わる問題でもある。不安を解消できるよう、避難計画についてただ告知するだけでなく、理解を深められる場を設けてほしい。
 ⑥いずれについても情報開示に努めてほしい。例えば、原発の安全性や点検に関する情報をもっと頻繁に公開してほしい。

島根原発1号機(左手前)、2号機(左奥)、3号機(右)=松江市鹿島町片句、2020年11月(資料)

 

時間をかけて市民が考えること必要
 4歳の娘を持つ、松江市八雲町東岩坂の自営業、佐々木奈穂さん(35)
 ①恥ずかしながら昨日のニュースでここまで話が進んでいることを知った。原発の存在で松江市内の経済が少なからず恩恵を受けている以上、必ずしも悪いものでは無いと思うが、今のところ(原発については)賛成でも反対とも言えない。原発については関心のある人と無い人とで差が大きく、自分のように一般人がどれくらい知っているかは怪しいものがある。反対派の意見を含めてしっかり調べないといけない。娘を持つ母としても、同じ母親同士で原発について話をする機会が増えて関心は高まっていると感じる。子どもへの影響などについて、もっと情報が欲しい。
 ②自分は原発自体は最終的に無くすべきだと考えているが、今すぐに無くすのは難しいとも思う。自然エネルギーに切り替えるとしても風力や火力ともメリット、デメリットはある。一番良い選択をするためにも時間をかけて市民が考えることが必要だ。いずれにせよ目先の事だけ考えるのは良くない。地元住民として今までに恩恵は受けているはずだし、(原発を)100(%)悪、善と捉えるのは良くない。
 ③福島の事故を見ているだけにもしもの事を思えばやはり怖い。こんなに近くに立地する原発は無いだけに余計に不安は強い。
 ④自然災害発生時の避難先は承知しているが、原発事故の場合は詳しい経路は知らない。近くの公民館に逃げるわけにも行かないので、他の市町村や県外に逃げるとなるとなかなか想像がつかない。周囲の住民も原発の存在が当たり前になっているので危険なものという認識が薄い気がする。今回の正式合格が安全面などについて考え直す契機になれば良いと思う。
 ⑤⑥全国的に原発の再稼働を進める国の方針によって、安全面ばかりが強調されている気がする。もっと悪い面(危険性とか)に関しても情報を広く示してもらいたい。中立的な情報を見た上で再稼働の是非について考え直したい。そうした意味で判断材料になる情報を発信して、多くの住民が考えるよう投げかけてほしい。

島根原発の事故を想定し、輸送用大型ヘリコプター「CH47」を使った避難訓練に臨む米子、境港両市の住民ら=鳥取市湖山町西4丁目、鳥取空港(資料)


なぜ許可するのか、判断はおかしい
 看護助手として働く出雲市大津町のパート職員、高橋十子さん(71)
 
①原発は危険なもの。福島の事故であれだけ危険性が分かったのに、なぜ許可するのか。判断はおかしいと思う。ここ数年、山陰でも大雨や地震など災害が頻発している。計画では、避難経路が決まっているそうだが、災害時にはあちこちで土砂崩れなどで道路が不通になっているのに。本当に避難経路が確保できるのだろうか。
 ②原発が停止してからも、原発を使わずに電力をまかなっている。今の状態を続ければいい。再生可能エネルギーの比率を高めながら、二酸化炭素の削減に取り組めばいい。
 ③地震とかが起きると、大丈夫なのかと思う。福島から島根に避難した方を知っているが、事故が起こり10年も故郷に帰れない苦しみを聞くと痛ましい。自分たちもそうなるのではないかという不安はある。
 ④避難先は広島県だとは知っているが、詳しい避難先までは知らない。ただ、大規模な地震があったときに、本当に受け入れてもらえるのだろうか。数年前から広島も水害が相次いでいる。これまでの計画通りに受け入れできるのか、計画を毎年見直しているのか知りたい。
 勤めている病院を始め、出雲には30キロ圏内に大きな病院がたくさんある。勤める病院にもたくさんの入院患者さんがいるが、移動が大変な人は多い。事故が起きたときに、本当にスムーズに避難できるのか不安だ。一般の避難する人の車で道路が大混乱になるような気がする。高齢者や病気の人ほど避難の負担は大きく、やはり再稼働には反対だ。
 ⑤安全性をしっかり確認してほしい。それと市民、県民の声を広く聞く機会を設けてほしい。若い人はどこに避難するか知らない人が多いのではないか。もっと広く周知しないといけない。避難の途中で何かあったときの補償はどうなっているのか。特に、島根は高齢者が多いので、補償制度の現状がどうなっているか知りたいし、知事や市長はその点も判断に加えてほしい。
 ⑥中国電力はこれまでもトラブルや記録の偽装などが発覚している。何か起こったときは、直ちに県民に情報を公開してほしい。これまでの対応が続けばますます不信感が強くなる。

原発事故を想定した訓練で、住民の避難に使われたバスを除染する作業員ら=2015年10月25日、鳥取県伯耆町(資料)

 

住民への安全対策の提示をしっかりと
 幼児から中学生までの3児を育てる米子市和田町の主婦、増田貴子さん(47)
 ①お昼のテレビニュースで正式合格を知った。想定する自然災害の規模が小さいという指摘がある一方で、中電が耐震工事も進めている。自然災害は人知の及ばない部分が多いが、安全性の判断はプロに任せるしかない。それでも原発災害が発生した時にどうするかが大切。福島原発の事故で安全神話が崩れただけに、住民への安全対策の提示と説明がしっかりとされなければ、再稼働はできないと思う。
 ②基本的には反対だ。人が扱うにはリスクが大きすぎる。電源確保を考えると、ただ反対という訳にもいかない。今は、エネルギー確保や環境問題から原発がなければならないとされるが、住民一人ひとりが早寝早起きなどで節電に協力し「足るを知る生活」を考えるべきだ。島根原発から都会地へ送電する間に大きなロスが出ると聞くし、導電網は森林を伐採してできた。地域に河川が多い日本の国土を考えれば、小さい水力発電をつくって発電するなど、できることはあるはずだ。
 ③災害は想定しきれない部分があること。避難計画の実効性など災害発生後の善後策。
 ④知っている。何年か前に、米子市と中国電力の担当者から自治会で説明を受けた。説明会では、米子市の担当者から避難計画の説明を受け、原発が持つリスクをあらためて知ったが、その後説明した中電の担当者は「安全です」ということで、「結局どっち?」と混乱した。その1回きりで最新の状況は分からないし、自らアンテナを張らないと情報が入ってこない。中電の広報誌が家に届くが、毎年のように説明があってもいい。知っていても、実際にできるのかという問題もある。特に原発から近い住民から順番に逃げることが本当にできるのか。みんな慌てて逃げるだろうし、道路も時間に
よって渋滞する場所は違う。小さい子や高齢者がいる家庭もあり、施設に入っている人もいる。住民が実感を持って備えるためにも、住民が参加する大規模訓練があってもいい。西風が吹くことが多い地域性を考えれば、島根県よりも危ないことが想定されるからなおさらだ。米子市和田町に住んで15年になるが、土地勘がある場所とない場所があることも避難に向けた不安のひとつ。
 ⑤資料など紙の上で判断するのはやめてほしい。大切なのは安全対策が破れた時に、どうするか。専門家だけでなく、市民レベルで「安全だね」といえる体制をつくれるか、つくれないかで判断してほしい。
 ⑥米子市には、住民への周知をしっかりしてほしい。単発で説明会をするのではなく、定期的に、計画だってしてほしい。例えば、市報で毎号コーナーをつくったり、市内にポスターを貼ったり。そのためにも市役所に専門部署があってもいいのではないか。中電には、定期的に広報誌が自宅に届くので、自治体よりは親切かもしれない。それでも米子市と同様、最新状況を定期的にわかりやすくしてほしい。

島根原発の事故を想定した島根県原子力防災訓練で、通行止めとなった区間に代わる避難ルートを検討する島根県職員たち=2020年10月28日、松江市殿町、島根県庁(資料)

早く稼働してほしい
 松江市東出雲町錦浜で金属製品を手掛ける企業を経営する曽田直秀さん(54)=松江市東朝日町=
 ①早く稼働してほしい。審査に通って良かったというのが本音だ。不安定な電力では製品の品質に影響を及ぼす恐れがある。現状では、安定した電力供給のためベース電源としての原発に頼らざるを得ない。原発はあくまで産業技術革新の中間過程であり、今後、太陽熱、太陽炉による発電技術の開発が進むことに期待する。
 ②③原発は安全な設備という認識だ。長期スパンで見たとき、今年4月に松江市鹿島町加賀で大規模火災が発生したように“隣の火事”の方が怖い。
 ④避難計画については、交通インフラの脆弱(ぜいじゃく)な山陰では、自治体任せではなく、消防や警察の指示待ちの状態を避け、自分なりの判断を持っておくことが大切だ。現在の見聞きする避難訓練は評価できるものではない。複合災害を想定した複数のパターンをシミュレーションして計画の実効性を高めていく必要がある。
 ⑤⑥電力会社は例えば、避難先の土地を買収し、平時は遊園地やキャンプ場を運営するなどして臨時避難先を確保するスタンスを示すことで住民の信頼につながるのではないか。国には原発の必要性を国民に丁寧な説明を、自治体には電力会社とともに十分な避難体制の構築を求めたい。
 

万が一が起きないような対策を
 境港市の境漁港で水揚げされるベニズワイガニのPR、普及に取り組む住民団体「境港ベニガニ有志の会」の会長を務める飲食店主、浜野政和さん(46)=境港市上道町=
①②エネルギーとか、電気料金値上げのことを考えれば再稼働自体は仕方が無いと思うが、絶対に万が一が起きないような対策をとってほしい。同時に避難計画とかヨウ素剤配布とかの対策もきちんとしてほしい