刑法の性犯罪規定を巡り、上川陽子法相はどのように見直すべきかの検討を法制審議会に諮問した。2017年7月、明治時代の制定以来110年ぶりに強姦(ごうかん)罪という罪名を強制性交等罪に変更して法定刑を引き上げるなど、性犯罪の厳罰化に力を入れた改正刑法が施行された。それから4年余りで再び、改正に向けた議論が本格化する。

 この間、愛知県で実の娘に性的暴行を重ねた父親の判決で名古屋地裁岡崎支部が無罪とするなど、19年3月に性犯罪で4件の無罪判決が相次いだ。これをきっかけに、性暴力への社会の無理解や法制度の不備を訴える「フラワーデモ」が全国に広がり、被害者や支援者らが続々と参加した。

 強制性交罪は被害者の抵抗を著しく妨げるほどの「暴行・脅迫」が構成要件になっている。捜査や裁判では、どれだけ激しく抵抗したかが問題になることが多く、恐怖で体が動かない場合などに加害者を罪に問えないこともあるとして、同意のない性交を罰する「不同意性交罪」の導入を求める声が高まっている。

 さらに公訴時効の撤廃・延長、教員などがその立場を悪用した場合の処罰、性交同意年齢の引き上げ―など今後、法制審の議論に委ねられる論点は多岐にわたる。いずれも意見を取りまとめるのは容易ではないとされるが、被害の深刻さを考えると、一刻も早く制度改正を行う必要がある。

 強制性交罪の暴行・脅迫要件のように、準強制性交罪では被害者の「心神喪失・抗拒不能」に乗じることが要件になっている。抗拒不能とは身体的、精神的に抵抗するのが著しく困難な状態を指す。愛知の事件では父親無罪の地裁支部判決と、逆転有罪の二審名古屋高裁判決とで抗拒不能の判断が分かれた。

 支援団体などは支部判決を「性的虐待の理解が不十分」と批判。暴行・脅迫や抗拒不能の要件を撤廃もしくは緩和し、不同意性交罪を導入するよう求めた。海外には明確な同意以外は不同意と解釈し、自発的に関与していない人との性交などを処罰する制度もある。

 法制審に先立ち20年から今年5月にかけて、有識者が性犯罪規定の見直しを議論してきた法務省の検討会では、不同意を立証するには暴行・脅迫などの客観的事実が必要になるとし、現行要件の撤廃に否定的な意見が根強く、結論は出なかった。一方で暴行・脅迫に加えて、不意打ちや欺(ぎ)罔(もう)、偽計など要件を幅広く列挙する案が示された。

 さらに強制性交罪の公訴時効は10年だが、「魂の殺人」といわれ、精神的ショックが大きいため被害申告に時間がかかるケースが多く、撤廃・延長が議論された。撤廃には証拠の散逸などを理由に慎重意見が相次いだものの、延長について目立った異論はなかった。

 教員や障害者施設の職員による性犯罪も目立ち、自らの立場を悪用した場合には、より厳しく処罰すべきか、欧米に比べ低すぎるといわれる性交同意年齢の13歳を引き上げるべきかなども検討された。ただ先に公表された検討会の報告書は論点整理にとどまり、明確な結論は示していない。

 それがそのまま法制審に引き継がれるが、制度が整わないため被害者にさらなるしわ寄せを強いることは何としても避けたい。集中的に議論し、結果を出すことに全力を傾けるべきだ。