菅義偉首相後継を決める自民党総裁選で第一に問われるべき政策は新型コロナウイルス対策だ。過去最大の感染拡大を招いた「第5波」が下火になっても安心はできない。第6波、さらには将来の未知の感染症まで想定し「次の危機」への備えを固める必要がある。

 病床を機動的に確保できない医療提供体制、難航した国と自治体の連携など、構造的な問題へ切り込む具体的改革案を各候補は示し競い合うべきだ。

 優先すべき目の前の課題は明白だ。まず19都道府県への緊急事態宣言を30日までの期限で解除できるようにし、政府が10~11月の早い時期を目指すワクチン2回接種完了の比率を可能な限り高めたい。その後にウィズコロナの社会経済活動を慎重かつ戦略的に軌道に乗せる。そして、もう逼迫(ひっぱく)がないよう臨時医療施設も含む病床確保を急ぎ、冬に襲ってくる可能性がある第6波に備えたい。

 そのためには、安倍前政権から続く1年半のコロナとの闘いで露呈した構造問題への対処を避けて通ることはできない。

 その第一は、欧米主要国に比べ突出して多い入院病床を備えながら、コロナ患者向け病床が不足してしまう日本の医療界の弱点だ。中小規模が多く医療従事者、設備の限られている民間病院が、全医療機関の約7割を占めることが原因とされる。

 これに総裁選候補たちはどう対応するのか。「医療難民ゼロを実現する」「自宅療養者を皆無にするくらいに取り組む」とアピールは勇ましいが、地域に根付いた開業医中心の医療界の現状で、いかに病床と人材の確保を実行するのか。具体策がなければ現実味はない。

 第二に国と自治体、さらには中央省庁間の「縦割り」で危機管理の司令塔機能、指揮系統がなかなか確立できなかった。各候補は「強い指揮権限を持つ健康危機管理庁」設置、所管範囲が広すぎると言われる厚生労働省の分割などの案に相次いで言及している。だが機構改革は大きな予算とエネルギーを要するが、それに見合うだけ有効な解決策になるのか。もっと説明を尽くしてほしい。

 菅首相が日本になじまないとした欧米のロックダウン(都市封鎖)に近い強硬措置については、候補の多くが議論や法整備に前向きだ。ただ憲法は戦前への反省に立ち、個人の自由、権利を最大限保障している。コロナ収束という大義はあっても時流に流されない、抑制の効いた議論を求めたい。

 何より各候補は、菅政権のコロナ対策の反省点を総括し、足らざるを補い、正すべきは正す姿勢で総裁選に臨んでほしい。それでこそ今回の政権交代が有意義になる。

 首相が「私はできなかった」と認めた最大の反省点は、自らの言葉で国民に危機を訴え、厳しい対策へ理解、協力を得るコミュニケーションの欠如だ。その原因ともなったのは、営業規制やワクチンの効果への期待過剰による楽観的見通しだ。そして経済活動を重視するあまり観光支援事業「Go To トラベル」停止や緊急事態宣言の判断が常に後手に回った。

 各候補は「(情報を)国民と共有し謙虚に分かりやすい対話をしながら決めていく」「常に最悪の事態を想定した危機管理」と菅政権の反省を踏まえる姿勢を示す。ならば、路線転換もいとわない忖度(そんたく)抜きの論戦を国民の前で展開してほしい。