自民党総裁選が告示された。立候補したのは、河野太郎行政改革担当相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の4氏。党所属国会議員と党員・党友が投票し、29日に新総裁が決まる。新総裁は国会での首相指名選挙を経て、菅義偉首相の後継首相に就くことになる。

 総裁再選を目指していた菅首相は出馬を断念し退陣表明に追い込まれた。一国のリーダーに何より求められる説明責任をないがしろにした姿勢が国民の反発を呼び、一連の選挙で「不信任」を突きつけられたためだ。

 総裁選では政治不信を払拭(ふっしょく)する論戦を望みたい。新型コロナウイルス感染症の収束に向け、国民のさらなる協力を得るためにも不可欠である。

 菅首相は安倍晋三前政権から引きずっている疑惑の解明に終始、後ろ向きだった。森友学園を巡る決裁文書改ざん問題が最たるものだ。安倍氏の後援会関係者を優遇し、「権力の私物化」批判がある「桜を見る会」問題への対応も到底納得できるものではなかった。

 総務省官僚の違法接待では、菅首相の長男が関与していた結果、行政がゆがめられたとの疑惑が膨らんだが、解消されないままだ。

 国民の信頼回復には、不祥事にもきちんと向き合い、自浄能力を発揮する必要がある。9年近くに及んだ「安倍―菅」体制に幕を引く今回の総裁交代は、独善的とされた政権運営の在り方を抜本的に見直す絶好の機会である。

 総裁選は、河野、岸田両氏を軸にした争いになるとみられ、両氏とも自民党改革を重視している。

 河野氏は「自民党が国民に耳を傾ける政党であり続けるかが一番問われている」と指摘。菅政権について「一番欠けているのは国民に対する説明だと思う」と語り、共感を得られる政治を目指すと主張している。

 岸田氏は「国民の声が自民党に届かず、政治の根幹である国民の信頼が崩れている」と強調。「政府方針の必要性、決定までのプロセスを自ら丁寧に説明する」と訴えている。

 いずれの認識も正しいと言えるだろう。だが、河野、岸田両氏とも森友問題で改ざんを強いられ自殺した近畿財務局元職員の遺族が求めている再調査に否定的だ。安倍氏が支援する高市氏も同様の見解を示したが、野田氏は再調査が必要との認識を明らかにした。

 河野、岸田両氏については、安倍氏への配慮から腰が引けているとの見方が党内では出ている。そうであれば、改ざんの背景にあったとされる官僚の忖度(そんたく)に終止符を打てるかおぼつかないし、自民党内で続発した「政治とカネ」問題の根絶にも不安が残る。安倍前政権と菅政権の負の遺産への真摯(しんし)な取り組みこそ、政治への信頼を取り戻す出発点になると自覚すべきだろう。

 説明責任を果たす場は第一に国会だ。4氏とも、首相になれば臨時国会で所信表明演説を実施し、各党の代表質問を受ける意向を表明した。野党は加えて予算委員会やコロナ関連の委員会開催も要求している。

 衆院選は議員の任期満了後の11月にずれ込む見通しだ。総裁選に投票権がない多くの有権者に政権選択の判断材料を提供するために、予算委質疑に応じるべきではないか。それが国会軽視ではない証左にもなる。