花といえば桜。先週末に開花が発表された松江市のソメイヨシノは競うように咲き誇り、今週末は花見客でにぎわいそう。その情景とは対照的なのが「秘すれば花」という言葉。室町時代に能楽を大成した世阿弥が能の理論書『風姿花伝』に書き残した。
一般的に、何でもさらけ出すより控えめに慎(つつ)ましくしている方が美しいという解釈で知られる。だが本来は、秘密にすることで物事の価値が高まり、いざ披露する際、観客に「花」(感動や魅力)を与えることができるという意味合いで、勝負を制するための戦略らしい。
世阿弥の時代には「立合」という形式で、能の競い合いが行われたそうだ。複数の役者が同じ日の同じ舞台で能を上演し、その優劣を決める。立合に敗れれば支援者に逃げられてしまうだけに、自らの芸の今後を懸けた真剣勝負だっただろう。
世阿弥は自分に運が向いている時を「男(お)時(どき)」、離れている時を「女(め)時(どき)」と呼び、誰にでも交互に訪れる自然な流れであり、逆らわず受け入れるべきだと説いた。自分の現状を冷静に見つめ、無理をしないことも必要だという教え。ただジェンダー平等の現代なら“悪(お)時(どき)”“愛(め)時(どき)”と漢字を置き換えた方がしっくりきそう。
きょうから新年度。入社式に臨む新社会人も多いだろう。最初は失敗がつきもの。“悪時”も落ち込む必要はない。そして「初心忘るべからず」。これも世阿弥の言葉である。(健)














