国の名勝・天然記念物の峡谷「鬼の舌震」に自生するキシツツジ=島根県奥出雲町三成(小林伸雄・島根大教授撮影)
国の名勝・天然記念物の峡谷「鬼の舌震」に自生するキシツツジ=島根県奥出雲町三成(小林伸雄・島根大教授撮影)

 世界で初めてとなる日本原産野生ツツジのゲノム(全遺伝情報)の解読に、島根県など中四国地方の河川の岸辺で自生する「キシツツジ」が役立った。島根大生物資源科学部の小林伸雄教授ら研究グループが2019年9月に研究を開始し、今年7月に論文にまとめた。他の品種の成立過程が解明される可能性があり、園芸品種の改良加速などが期待できるという。
(報道部・佐貫公哉)

 4月から5月上旬にかけてピンクの花が開くキシツツジは、川沿いの岩場に自生する。日照りや大雨時の増水に見舞われがちな環境で育っていることから、暑さ、乾燥や湿度に強い。少ない栄養でも育ちやすい。

 

キシツツジのゲノム解読について説明する小林伸雄教授=松江市西川津町、島根大学

 小林教授らは島根県奥出雲町にある国の名勝・天然記念物「鬼の舌震」で育ったキシツツジを材料に、全ゲノム配列に当たる5億塩基対のDNA配列を解読した。

 この結果、八重咲きや変わった花の色など園芸品種が持つ性質の原因になった遺伝子を特定しやすくなったという。

 これまでキシツツジについては、遺伝子の一部が公園や街路の植え込みによく用いられる園芸品種の「オオムラサキツツジ」と共通するなど、ほかのツツジに与える影響が指摘されていた。

 小林教授は「キシツツジの遺伝子が、江戸時代頃にほかのツツジに伝わり、道路沿いといった厳しい生育環境で育つオオムラサキツツジが出来上がったと考えられる」と話す。

 解明によって期待されることについて、小林教授はキシツツジの環境耐性を生かした品種改良を挙げる。

 例えば、100日間花を咲かす「見染性(みそめしょう)」の性質を持ったツツジの品種改良だ。

 見染性のツツジは、4月末に小ぶりながらピンクやオレンジなど多彩な花をつける。ほかのツツジが通常7~10日ほど開花するのに対し、長期にわたって咲き続ける。園芸が盛んだった江戸時代に人気を集めたというが、現在は希少品種になっており、環境耐性もさほど強くない。

 今後キシツツジとの交配により、各地の公園や街路のあちこちをツツジの花々が息長く彩る日が訪れるかもしれない。