田中 理氏
田中 理氏

コロナ禍での英国のEU離脱

 欧州に対立と妥協の歴史

 山陰中央新報社の石見政経懇話会、石西政経懇話会の定例会が20、21日、浜田、益田各市であった。「コロナ禍での英国のEU離脱」と題し、第一生命経済研究所主席エコノミストの田中理氏が、離脱の経緯や日本への影響などを解説した。要旨は次の通り。

 英国は1973年にEU(欧州連合)の前身の欧州経済共同体に加盟した。当時は加盟国が少なく、強い経済力を持つ英国の意見は尊重されていたが、特に2000年代に入り加盟国が増えると声が通らなくなった。EU離脱の経緯にはEUが決めるさまざまな規制に対し高まった英国民の不満があった。

 英国EU離脱の日本への直接的な影響は大きくないだろう。

 ただ、英国をEUでのビジネスの中核と捉えて展開する企業は少なくない。英国に進出している日系企業の数は約千社で、欧州ではドイツに次ぎ2番目だ。製造業と金融業の比重が大きい特徴がある。トヨタ、日産、ホンダは英国に工場を持ち、英国からEU圏に輸出している。

 一方、欧州を襲った新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大は沈静化に向かいつつあるが、経済への打撃は深刻だ。実質GDP(国内総生産)の成長率は、欧州の平均が年率30%のマイナス、英国は60%ものマイナスになっている。

 なぜ欧州に着目するのか。EUは経済や人口でみると米国に匹敵する規模がある。現在加盟するのは27カ国で人口は約4億7千万人、離脱した英国も入れると5億人を超す市場になる。さらに国際的なルールをつくるとき、1国1票で決めることが多く、先進国が多い欧州の意見は通りやすい。実際に欧州基準で決まったルールは多数ある。

 欧州と日本は似た構造もある。例えば欧州は市場経済を重視はするが、一辺倒ではなく、福祉と両立する経済社会構造がある。米国の場合は市場原理を突き詰めていく点で異なる。

 欧州統合の取り組みは曲がり角に来ている。ただ、欧州諸国の意見集約が難しいのは今に始まったことではない。対立と妥協の歴史がある。最後はまとめるのが欧州でもある。