新型コロナウイルス緊急事態宣言と、まん延防止等重点措置が全面解除された。飲食店では酒類提供が可能になるなど制約が緩和されたが、時短要請は多くの地域で1カ月程度続く。専門家は、休業や時短といった営業制限は宣言や重点措置の発令時しかできないとして「法解釈の誤り」を指摘。今回の要請に強制力はないのに、政府の説明も不十分だと批判する。
「よかった。ようやく、という感じ」。東京・JR神田駅の近くでバー「ジェイブリッジ」を経営する馬目大輔さん(48)は、宣言解除に胸をなで下ろした。お酒が出せるようになるのは、ほぼ3カ月ぶり。ただ東京都の要請で営業時間は午後9時までだ。「うちは本来遅くまで営業する店なので、売り上げの回復はまだ難しいだろう」と、ため息をついた。
政府は全面解除に合わせ、感染対策の指針「基本的対処方針」を改定。解除後も感染状況をみながら緩和は段階的にするとした。これを受け都は1日から24日まで、感染対策の認証を受けた飲食店に限り酒類の提供を午後8時まで認め、営業時間の短縮要請を午後9時までとした。認証店以外は酒類提供を認めず、営業は午後8時まで。他の解除地域も多くが同様の対応を取っている。
解除後も飲食店にこうした制限を課す根拠は、新型コロナ対応の改正特別措置法だ。特措法に基づく都道府県知事の「要請」は大きく分けて二つ。一つは宣言と重点措置の発令時しか出せない要請で、45条と31条に基づく。「正当な理由」なく拒めば知事は命令を出すことができ、従わないと過料を科せる。
もう一つは宣言や重点措置の有無に関係なく可能な、個人や団体への「必要な協力の要請」で、24条が定める。今回、各自治体が求める制限は24条に基づいており、従わなくても命令や罰則などの強制力はない。
だが、こうした運用に識者からは厳しい声が上がる。元鳥取県知事の片山善博早稲田大大学院教授は、24条9項の「公私の団体または個人」は、医師会などの団体あるいは感染症の専門家などを想定しており、飲食店などを対象にするのは法解釈の誤りだと指摘。「引き続き対策が必要なら、宣言や重点措置を継続したまま具体的な要請内容を段階的に緩和し、制限が完全に必要なくなった時点で解除すべきだ」と話す。
慶応大法科大学院の横大道聡教授(憲法)は、2月施行の改正特措法で重点措置が新設されたことにより、重点措置では時短まで、宣言では休業と、活動の制限を要請できる範囲が明確化されたと説明。「24条では時短などの要請はできないと解釈すべきだ」と強調する。
さらに政府や自治体が、24条に基づく今回の要請に強制力がないことを丁寧に説明していないのも問題だとする。「従う法的義務があると人々に思わせる、ずるいやり方だ。むげにできない事業者は多いだろうし、『自粛警察』の活動を助長することにもなりかねない」と批判した。