衆院議員の任期満了日を過ぎるとはいえ、内閣を発足させてから1カ月足らずで政権選択を有権者に求めるのは、党利党略を優先したと指摘されてもやむを得まい。

 岸田文雄新首相が次期衆院選を「今月19日公示―31日投開票」の日程で実施する意向を表明した。臨時国会での所信表明演説と与野党の代表質問が終わり次第、会期末の14日に衆院を解散する。

 自民党総裁に就任した岸田氏は臨時国会初日の4日、第100代首相に選出され、岸田新内閣を組閣した。閣僚20人のうち初入閣が13人を占めている。「中堅・若手を登用する」との総裁選での約束を一定程度実行したと言える。だが閣僚としての能力を代表質問のみで測るのは難しい。

 衆院議員の4年間の任期は21日までだが、公選法上、衆院選が任期切れ後になることは認められている。新内閣の方針を巡り首相や各閣僚が可能な限り野党と論議を尽くし、有権者に投票に当たっての判断材料を提供するべきだろう。

 政府、与党内では11月7日か14日投開票が有力視されていた。このため立憲民主党の枝野幸男代表は森友、加計学園問題などへの対応を一問一答形式の予算委員会でただす必要があるとして臨時国会の会期を1週間程度延長するよう求めていた。

 論戦のテーマには当然、新型コロナウイルス対策もある。1日当たりの新規感染者数が急速に減少しているものの、年末から来年初めにかけて「第6波」が到来する恐れは否定できない。衆院選向けの集会開催などで人の動きが活発になれば、なおさらだ。

 岸田氏は菅義偉前首相の対応を「最悪の事態を想定して対応せず、後手後手に見えた」と疑問視。「国や自治体の権限を活用し、病床・医療人材の確保を徹底する」と訴えてきた。

 今後も感染防止に国民の協力が欠かせない以上、国会で新内閣の取り組みについて具体的に説明し、納得してもらうことが必要ではないか。「聞く力」を売り物にする岸田氏は野党の主張にも耳を傾けるべきだ。

 衆院選を早めたのは、年末の予算編成作業への支障を避けるためとの見方もある。だが、閣僚の資質が表れやすい予算委に応じないのは、新内閣への国民の期待値が下がらないうちに衆院選を断行した方が有利と考えたとの疑念を持ってしまう。

 閣僚人事に先立つ自民党人事では、安倍晋三元首相、麻生太郎前副総理兼財務相の盟友である甘利明氏を幹事長に起用。麻生氏は復活させた副総裁ポストに就けた。安倍氏が総裁選で支援し、決選投票では岸田氏と共闘したとされる高市早苗氏は政調会長で処遇した。

 いずれも「論功行賞」の色彩が濃い。森友問題の再調査を否定している岸田氏にすれば、安倍氏と関係が深い甘利氏ら3人の重用は既定路線だったかもしれない。

 岸田氏が忘れてならないのは、9年近く続いた「安倍―菅体制」は説明責任をないがしろにした独善ぶりが目に余り、国民の政治不信を増幅させたことだ。「丁寧で寛容な政治」を掲げたのは、その反省からだったのではないか。「聞く力」や「寛容な政治」が自民党内の有力者向けにすぎないのであれば、衆院選を乗り切ったとしても早晩、民意は離反していくだろう。 衆院議員の任期満了日を過ぎるとはいえ、内閣を発足させてから1カ月足らずで政権選択を有権者に求めるのは、党利党略を優先したと指摘されてもやむを得まい。

 岸田文雄新首相が次期衆院選を「今月19日公示―31日投開票」の日程で実施する意向を表明した。臨時国会での所信表明演説と与野党の代表質問が終わり次第、会期末の14日に衆院を解散する。

 自民党総裁に就任した岸田氏は臨時国会初日の4日、第100代首相に選出され、岸田新内閣を組閣した。閣僚20人のうち初入閣が13人を占めている。「中堅・若手を登用する」との総裁選での約束を一定程度実行したと言える。だが閣僚としての能力を代表質問のみで測るのは難しい。

 衆院議員の4年間の任期は21日までだが、公選法上、衆院選が任期切れ後になることは認められている。新内閣の方針を巡り首相や各閣僚が可能な限り野党と論議を尽くし、有権者に投票に当たっての判断材料を提供するべきだろう。

 政府、与党内では11月7日か14日投開票が有力視されていた。このため立憲民主党の枝野幸男代表は森友、加計学園問題などへの対応を一問一答形式の予算委員会でただす必要があるとして臨時国会の会期を1週間程度延長するよう求めていた。

 論戦のテーマには当然、新型コロナウイルス対策もある。1日当たりの新規感染者数が急速に減少しているものの、年末から来年初めにかけて「第6波」が到来する恐れは否定できない。衆院選向けの集会開催などで人の動きが活発になれば、なおさらだ。

 岸田氏は菅義偉前首相の対応を「最悪の事態を想定して対応せず、後手後手に見えた」と疑問視。「国や自治体の権限を活用し、病床・医療人材の確保を徹底する」と訴えてきた。

 今後も感染防止に国民の協力が欠かせない以上、国会で新内閣の取り組みについて具体的に説明し、納得してもらうことが必要ではないか。「聞く力」を売り物にする岸田氏は野党の主張にも耳を傾けるべきだ。

 衆院選を早めたのは、年末の予算編成作業への支障を避けるためとの見方もある。だが、閣僚の資質が表れやすい予算委に応じないのは、新内閣への国民の期待値が下がらないうちに衆院選を断行した方が有利と考えたとの疑念を持ってしまう。

 閣僚人事に先立つ自民党人事では、安倍晋三元首相、麻生太郎前副総理兼財務相の盟友である甘利明氏を幹事長に起用。麻生氏は復活させた副総裁ポストに就けた。安倍氏が総裁選で支援し、決選投票では岸田氏と共闘したとされる高市早苗氏は政調会長で処遇した。

 いずれも「論功行賞」の色彩が濃い。森友問題の再調査を否定している岸田氏にすれば、安倍氏と関係が深い甘利氏ら3人の重用は既定路線だったかもしれない。

 岸田氏が忘れてならないのは、9年近く続いた「安倍―菅体制」は説明責任をないがしろにした独善ぶりが目に余り、国民の政治不信を増幅させたことだ。「丁寧で寛容な政治」を掲げたのは、その反省からだったのではないか。「聞く力」や「寛容な政治」が自民党内の有力者向けにすぎないのであれば、衆院選を乗り切ったとしても早晩、民意は離反していくだろう。