中国軍機が台湾の防空識別圏進入を加速させている。軍事圧力を誇示する習近平国家主席。軍事演習への台湾招待を狙うバイデン米政権への反発がにじむ。親台派の岸信夫防衛相を続投させた岸田文雄新政権をけん制する狙いも。米軍が警戒する武力による台湾統一が現実味を増しているのか。中国の本音を探った。
「中国周辺に空母が3隻も接近するのは第2次大戦後初めての事態だ」(中国筋)。同筋によると、日米など6カ国が2~3日、沖縄南西で実施した共同訓練を重く見た習氏は、中央軍事委員会を急きょ開いた。
中国は台湾の平和統一路線を放棄していないが、武力統一に必要な軍事力、実戦力の向上を着々と進める。防空識別圏への進入はただのけん制ではない。4日に大量飛行した戦闘機「殲16」は台湾制圧作戦時の主力戦闘機。長距離爆撃機「轟6」や対潜哨戒機は米軍への攻撃や米軍接近阻止のための武器だ。台湾を武力制圧できる能力があることを示す狙いだ。
台湾の消息筋は「米日に見せつけるためだ」と分析。台湾紙編集幹部は「岸田新政権に対するけん制の意図」とした上で、中国は新政権で親中派が後退し、対中強硬派が勢いづいているのを警戒していると指摘する。
対中関係を重視し、台湾問題に慎重だった日本だが、3月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で「台湾海峡の平和と安定」と共同声明に明記、一歩踏み込んだ。以降、日台与党が安全保障を巡るオンライン会合を初開催するなど連携強化を続ける。
対中包囲網構築を図るバイデン政権は欧州を含めた同盟・友好国と連携。9月には米英豪3カ国の新たな安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設した。
「台湾海峡の平和と安定は、米国にとって永続的な関心事だ。台湾の十分な自衛力の維持を支援し続ける」。米国防総省報道担当者は4日、中国軍の台湾防空識別圏進入を受け、武器供与などを通じた台湾への「関与」を強調した。
ただ米側が不用意に軍事圧力を強めれば、事態はエスカレートしかねない。偶発的な衝突を防ぐためには米中国防当局間の意思疎通が不可欠だが、バイデン政権発足後、国防相会談はいまだ実現していない。「対話があまりできていない」(米軍高官)と懸念する声も。米中対立解決の道筋には手詰まり感が漂う。
包囲網にいら立ちを募らせる習指導部。岸田政権でも日台関係強化路線は変わらないとみて「釣魚島(沖縄県・尖閣諸島の中国名)周辺での警備行動継続や日本周辺への無人機接近戦術の強化を指示している」(中国筋)。「釣魚島は日本が日清戦争に絡んで奪い取った台湾の一部」とみなす習氏にとって、台湾統一と〝尖閣奪還〟は同一線上の問題。日中間の軍事衝突のリスクもじわりと高まっている。(北京、台北、ワシントン共同)