木製家具を手掛けるウッドスタイル(松江市福原町)と住宅メーカーのハウジング・スタッフ(松江市東津田町)がタッグを組み、「猫にも人にも優しい家」を完成させた。手掛けた家はウッドスタイルの西村幸平社長(56)の自宅で、9月には「猫と人との共生住宅」のモデルルームとして一般開放した。西村社長は大の猫好きで、自宅では3匹の猫たちと暮らし、会社には5匹の猫がいる。ハウジング・スタッフの平儀野好美社長(43)も幼少期から猫好きで、現在は2匹の猫と暮らしている。あちこちに設置されたキャットウオーク、爪とぎを兼ね備えた柱、においや傷が付きにくい素材…と、至る所に猫と暮らす工夫がされている。猫と人、両方への配慮が感じられる住まいを見学させてもらった。(Sデジ編集部・宍道香穂)
家に入り、リビングのドアを開けた瞬間、驚いた。天井付近にキャットウオークが設けられ、猫たちが思い思いに歩き回れるようになっている。猫がスピードをつけすぎて壁にぶつかってしまわないよう、どのキャットウオークにも段差が着いている。
猫にも人にも実用的な家具
自由に上り下りができるキャットタワーもある。ポール型のキャットタワーはよく見るが、壁に沿うように取り付けられたボックス型のキャットタワーは初めて見た。「側面が扉になっていて、中にものを収納できます」と西村さん。猫だけではなく、人にとっても実用的な家具だ。タワーは天井にぴったりとくっついていて、その部分の天井には穴が空いている。猫たちはそこからそのまま2階へ出られるようになっていて、猫の冒険心を十分に満たせそう。家具単体では作れない仕組みで、住宅メーカーと協力しているからこそできる家づくりだと感じた。ほとんどのドアに猫用の通路があったり、ドアの外に猫がいないか確認するために下部が透明なガラスになっていたりするのもなるほどと感じる。

また、壁や天井にはケイ藻土が塗られている。西村さんは「ケイ藻土には、消臭効果や調湿効果があるんです」と説明する。猫を飼う上で大きな悩みとなるのがニオイ。確かに、西村さんの家では猫特有のニオイを全く感じず、ケイ藻土の消臭効果に驚いた。
猫用トイレが壁面のくぼみや箱の中にあり、個室のようになっているのもポイント。「猫は狭くて閉じた場所を好むため、小さな個室のようなスペースを作るようにしています」と西村さん。平儀野さんも「うちの猫も、高級な家具よりも断然、段ボールの中がお気に入りです」と苦笑い。
愛情を注げば、きっと応えてくれる
約30年前から猫と共に生活している西村社長。かつては別のオーダーメイド家具会社に勤務していたが、2004年に会社が倒産。数か月後、自ら新たに家具製作会社を立ち上げ、18年には猫用家具ブランド「りねこ」の展開を始めた。「猫からの返事(Re:neko)」を表す造語で、「愛情を注ぎ続ければきっと、猫も応えてくれる」との意味を込めている。西村さんは「海外には良いデザインの猫用家具が豊富なのですが、日本ではあまり見ない。だったら自分で作ろうと、猫用家具の製作を始めました」と経緯を説明した。人にとっても猫にとっても実用性の高い「りねこ」の家具は、広島県や岡山県など、県外からも注文が入る。

平儀野社長との出会い
平儀野社長も、幼少期から猫と共に暮らしている。建築業を営む中で「好きなことで仕事がしたい」という思いが芽生え、大好きな猫をテーマにした家づくりを構想するようになった。今年1月、本紙の広告欄でウッドスタイルを知り、西村さんに連絡。展示場へ足を運び、実際に猫用の家具を見学した。
その後、西村社長から自宅の新築を考えていると聞き、猫と人とが心地よく暮らせる住まい作りが始まった。5月に着工し、8月末に完成。完成した自宅は2日間、モデルルームとして開放し、県内外から21組が見学に訪れた。平儀野社長は「住宅設計と家具設計、両方のアイデアを組み合わせることで、可能性が大きく広がると感じました。建築家として、今回のプロジェクトで新たに学んだことも多いです」と、新たな試みを振り返る。

両社は今後、猫と人との共生住宅を本格的に商品化し、広めていきたいと考えている。ペットと人間との共生住宅を普及させ、飼育の負担を軽減するのもひとつの狙いだ。西村社長が飼育している猫はすべて保健所から引き取った保護猫といい、「猫も人も暮らしやすい家があれば、飼育の困難さも軽減できます。飼育しやすい環境を作ることで、飼育放棄や殺処分件数の削減、引き取り手の増加に一役買えたら」と、思いを口にした。
「癒しの空間」を見学
取材後、西村社長が会社内に設置しているショールームを見せてもらった。「りねこ」の家具があちこちに置かれたショールームで、5匹の猫たちが思い思いにくつろいでいた。人懐こくすり寄ってくる猫もいれば、天井付近の定位置から一歩も動かずこちらを見下ろしている猫もいて、それぞれの気ままな様子にほっこり。西村社長は「人をだめにする部屋です」とにやり。確かに、一度入ると出たくなくなる癒やしの空間だ。「この子は寄ってくるけど、こちらがかまうと逃げてしまうんです」「この子は人が来るといつもたぬき寝入りをするんです」「あそこにいる三毛猫は毛の色がくっきりと分かれていてきれいですよ」など、それぞれの猫を丁寧に紹介してくれる西村社長から、猫たちへの大きな愛情を感じた。

ショールームに設置されたキャットウオークを使いこなす猫たち