米国で5~11歳に対する新型コロナウイルスワクチンの接種が認められる方向となった。懸念されている冬の感染増加を抑え、学校の安全性を向上させる手段として期待される。一方で重症化リスクの低い子どもへの接種に慎重な意見や、接種を急ぐ保護者ばかりではないとの調査もある。感染者や死者が少ない日本でも接種機会は必要とみる専門家もおり、今後の動向が注目される。
「十分なワクチンを買ってある。保護者は子どもに接種を受けさせてほしい。お子さんが守られていれば安眠もできるでしょう」。バイデン米大統領は今月中旬、使用許可を見越し、前のめりにこう訴えた。
米国は秋口、感染力の強い変異ウイルスのデルタ株流行の大波に襲われた。疾病対策センター(CDC)によると、26日までに5~11歳の感染者は190万人以上、死亡は166人の報告があった。1~5月にはコロナが子どもの死亡原因の10位以内にも入り、11歳以下への接種の開始時期を巡る臆測が連日メディアを騒がせてきた。
だが保護者の熱はそこまで高くない。非営利組織カイザーファミリー財団の9月の調査では、5~11歳の子を持つ親で「すぐに受けさせたい」としたのは34%、「様子見」は32%。「絶対にさせない」も24%いた。
米国と比べ桁違いに少ないが、日本でもデルタ株が広がり、子どもの感染は問題になった。厚生労働省によると、19日までの感染者は10歳未満が約9万人、10代が約17万人。死者は10歳未満にはおらず、10代が3人だった。8月下旬以降、全感染者に占める小学生以下の割合がやや増加傾向にある。ワクチン接種が進んだ大人の感染が減った影響との見方が強い。
学校や保育園などでの集団感染も複数見られたが、感染経路は一貫して家庭内が最も多い。8、9月では7割以上を占めたとのデータもあった。
子どもが拡大の要因となるインフルエンザと違い、コロナではそこまで大きな役割は果たしていないと考えられており、これまで大人の予防策が重視されてきた。
再流行の懸念もある中、新潟大の斎藤昭彦教授(小児感染症学)は「周りの大人が接種していても、子どもが完全に守られるわけではない」とし「日本でも接種できる機会を設けた方が良いのではないか」と提案する。
幼い子どもでの発生頻度は十分に示されていないが、若い世代を中心に心筋炎などの副反応が起こるリスクが指摘されている。米メディアによると、26日の米食品医薬品局(FDA)の外部有識者委員会では、持病がある子などに対象を絞るべきだとの意見も出た。日本国内では死者がほとんどいないことから、必要性を疑問視する声もある。
一方、感染した子どもに複数の臓器で炎症が起きる重い例や、後遺症とみられる症状も報告されている。適正なマスクの装着や手洗いも大人より難しい。聖マリアンナ医大の勝田友博准教授(小児感染症学)は「接種にメリットはある。現状から考えると世界に先駆けて進める必要はないが、安全性を十分に注視した上で接種を行うのが良いと思う」と指摘する。
さまざまな意見がある中、斎藤さんは「国が方針を決めるまでに学会などの関係する団体としっかり議論をすることが必要だ」と話している。(ワシントン、東京共同)
▼子どもの新型コロナウイルス感染 米小児科学会などによると、10月21日時点の集計では、おおむね17~19歳以下の感染者は全体の16・5%で、直近の週では25・1%。米疾病対策センターによると、年齢が分かっている死者約60万人のうち17歳以下は約760人。一方で心臓など複数の臓器で炎症が起きる「多系統炎症性症候群」は昨年5月から今年10月までに約5千例報告されている。感染した子どもの3割近くで倦怠(けんたい)感などの症状が4カ月以上続くとの英国の研究もある。