新型コロナウイルスの影響で外出が減り、在宅時間が増えたのを受け、ボードゲームが人気になっている。手軽さに加え、テレビゲームのように複雑な操作やルールがなく、都会地では専用の交流バーが多数できているという。どんなゲームがあるのか、魅力は何なのか。国内外の500種類をそろえる専門店「ホワイエピッコリーノ」(松江市大草町)を訪ねた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
ボードゲームの種類は多岐にわたる。幅広い世代に親しまれている「人生ゲーム」のようにゴールを目指して駒を進める競走系や、オセロのように駒の枚数を競う陣取り系、将棋やチェスのように相手の駒を全滅させるか特定の駒を奪えば勝利になる包囲系がよく知られている。ゲームの種類で細分化すれば切りがないほど。遊べる種類の豊富さが魅力だ。
ホワイエピッコリーノは池田典彦店長(48)が、ゲームの魅力を広く伝えるために2012年にオープンした。店では販売するほか交流スペースがあり、実際に遊ぶことができる。
店名のホワイエはフランス語で「だんらんの場」、ピッコリーノはイタリア語で「小さくてかわいい」を指す。池田店長によるとオープン当初、全国で他にボードゲーム専門店はほとんどなかったという。現在は愛好家の増加に伴って500店舗ほどに増えている。コロナ禍によって、さらに人気が上がり「買いに来る人がコロナ前より2割増になった」と話す。
ボードゲームの楽しみはプレーヤーが顔を突き合わせて同じ卓を囲み、相手の性格や戦略を考えながらゲームを進め、最後は全員が笑顔で終われる点という。戦い方を見ることで、初対面でも簡単な会話をする以上に相手の人柄がよく分かる。「単なる娯楽で済ますにはもったいない。最大のコミュニケーションツールだ」と池田店長は力説する。

店内に入ると、大量のゲームが並べられた棚が目に飛び込んできた。棚にあるゲームだけで200種類近い。ボードゲームと聞くと「人生ゲーム」くらいしか思い浮かばなかったが、あまりの数の多さにびっくりした。
ゲームを知らなくても、池田店長が遊ぶ人数や参加者の年齢によってお薦めを選んでくれる。今回は少人数でできて1回30分ほどで終わるゲームをお願いし、正方形のカードをめくって陣地を取り合うドイツのゲーム「カルカソンヌ」を紹介してもらった。

ゲームの流れとしては、プレーヤーが山札の中からカードを1枚ずつめくり、地図をつくる。カードには道や家、街の一部が描かれ、絵柄がつながるように配置しなければならない。街や道の絵柄をつないで完成させることで得点になり、最終的に得点が多い人の勝ちになる。このゲーム、実は池田店長が専門店を開くきっかけになるほどのめり込んだという。
「カルカソンヌ」のルールは以下の通り
- 裏返しのカード72枚を山札とし、プレーヤーが交互に引いて地図を作る
- 「ミープル」という各自が7個持つ駒を使う。城や道のカードを引いた際にカード上に置き、街や道が完成した時に手元に戻すことで得点になる。引いたカードに手当たり次第置きすぎると手元に無くなってしまうので考えて使うことがお薦め
- 道のカードは1枚につき1点で、ミープルのあるカードから交差点や行き止まり(家)に着くと得点になる。
- ミープルが置かれた街は1枚につき2点で、街を外壁でつなげば得点になる。ミープルは完成した街カードのどれか1枚に1個だけ置いてあればよい。紋章付きの街は1枚4点。
- 修道院のカードは絵柄にかかわらず周囲8枚を埋めれば9点になる。



初めて遊ぶので、池田店長に教えてもらいながら実際にやってみた。

基本的には街の完成を狙うゲームだが、街を早々に完成させて着実に加点するか、街を大きくして大量得点を狙うか、悩む。今回は序盤に良い形の街カードを連続で引いたため、できるだけ街を大きくしようとしたが、中盤以降で街カードが思うように引けず、得点できない。池田店長は街を数枚で完成させ、道も一つ一つ地道に作っていく、堅実な作戦だった。
「山札にどのカードがあるかを予測できるようになると戦略性が上がりますよ」と池田店長。残りの街の地形を把握できれば、どこまで大きくしていいかを推測しやすい。回数を重ねて慣れることが勝利への近道か。初めて体験したが、頭の中では勝つにはどうしたらいいのか、あれこれ思いを巡らしてしまう。すっかりカルカソンヌの魅力にはまってしまったようだ。

最終的に、池田店長に大差をつけられて敗北した。狙っていた巨大な街が完成すれば逆転の可能性もあったが、そこまで甘くなかった。うーん、人生のようだ。
今回は2人対戦だったが、最大5人まで同時に遊べる。池田店長は「毎回地形が変わる上に、対戦人数によって戦略も全く違う。誰と何回やっても楽しめる、素晴らしいゲーム」と熱く話した。
カルカソンヌのような戦略性が必要なゲームは子どもには難しいかもしれない。親子で手軽にゲームをしたい人には「ワードスナイパー」がいい。
ワードスナイパーはカードに書かれたお題と頭文字に沿った単語を言い合うゲームだ。カードの片面に「飲み物」「職業」「動物」といったお題、もう片面にひらがな1~5文字が書かれ、お題の面を表にしたカード50枚を山札にする。山札を上から順にめくり、山札に出たお題に沿い、場に出たひらがなから始まる単語を先に言った人の得点になる。お題が「動物」で、ひらがなが「あ」だった場合「アヒル」「アイガモ」と素早く答えれば得点になる。誰かが得点して場にカードがなくなった場合と、お題に合う単語を誰も出せなくなった場合に再び山札からカードをめくって再度単語を言い合い、山札が無くなった時点で得点の多い人が勝ちになる。未就学の子ども用にお題を簡単にしたものもある。

語彙(ごい)力と反射神経が試されるゲーム。お題とひらがなの組み合わせは膨大にあるため、子どもから大人まで長時間にわたって楽しめる。カード数枚があれば遊べるので、カルカソンヌのように卓上のスペースを取らなくてよい点もいい。
大人数で遊ぶのなら、推理系の「人狼村」はいかがだろうか。プレーヤーには役割を書かれたカードが配られ「市民」と、市民を食べる「人狼」、特殊能力を持った「特別職」に分かれる。市民は特別な能力は持たず、人狼は毎回1人だけ市民を食べることができる。特別職はさまざまな能力があり、毎回1人だけ市民なのか人狼なのかを見破れたり、毎回1人だけ市民を人狼から守れたりする。ゲーム中、人狼以外は誰がどの役割なのかを知ることができない。
毎回、全員で議論して多数決で怪しい人物1人を処刑し、人狼は食べる人間を選ぶ。ゲームは議論、処刑、食べるの順で進行し、食べるの後は犠牲者が発表された後、再び議論に戻る。市民と特別職は人狼を全員処刑すれば勝ち、人狼は人狼の数が生存者の人間と同数になれば勝ちになる。ボードゲームでありながらプレーヤー同士の会話術が問われる、斬新なゲームと言える。
人狼は市民や特別職に扮(ふん)するため巧みにうそをつき、市民は発言内容や場の状況から、うそをついた人狼を見抜く。人狼を推理する楽しさに加えて、プレーヤーの顔ぶれによってゲーム難易度が大きく変わるため多くの人と遊びたくなるコミュニケーションツールだ。ホワイエピッコリーノでも定期的に人狼で交流する会を開催する。

ボードゲームに興じるのは小学生以来だが、時間を忘れて没頭してしまった。「デジタル」に囲まれた暮らしの中で、仲間や家族でテーブルを囲み、カードや駒を使って遊ぶという「アナログ」の価値が見直されていることに少し心が和んだ。