行政サービスのデジタル化に伴い、各地の自治体がスマートフォンに不慣れな高齢者の支援に力を入れている。商店街や集会所など身近な場所での使い方相談会や端末の無料貸与のほか、地域のコミュニティーで若者らがサポートする取り組みも。新型コロナウイルスのワクチン接種予約などを通じて改めて浮き彫りになった「デジタル格差」の解消を急ぐ。
東京都が10月10日に中野区の商店街で開いた高齢者向けのスマホ相談会。「気軽に聞けて、とても助かった」と満足げだったのは通りがかりに立ち寄った同区の甲野実千代さん(69)。「周りにもネットが使えず困っている人がいる。スーパーなどでもやってほしい」と話した。
都が翌11日にかけ、通信事業者らと連携して開催した相談会の場所は都内各地の文化センターやショッピングモール、団地の一角など計約30カ所。足を運んだのは約540人に上った。アンケート結果によると、半分は「身近に聞ける人がいない」と回答していた。
オンラインのサービスが新型コロナの影響を受けて幅広い分野で急速に拡大するのを背景に、都が年度内に予定する相談会は200回、体験教室も750回に上る。総務省が全国の携帯ショップなどで実施する講習会よりもさらに初歩的な内容を扱い、会場も高齢者が訪れやすい場所にする方針。担当者は「まずは普段から使うことに慣れてもらいたい」と話す。
浜松市は5月から、各地域の公民館で「出張デジタル講座」を実施。外出の自粛に伴って要望が増すビデオ通話の操作なども学べ、多くの希望者で抽選になることも。市が開催する生涯学習講座でスマホの使い方を取り上げることもある。
高齢者がスマホを使い始めるきっかけとして無料貸与の事業を始めたのは東京都渋谷区。応募した区内の65歳以上の高齢者約1700人に9月から端末を2年間順次貸し出し、通信・通話料も区が負担する。
区の調査では、区内の高齢者約4万3千人のうち約25%がスマホを持たない。無料通信アプリLINE(ライン)を活用した情報配信や防災アプリの提供を進めており、災害時に避難情報をより多くの人にリアルタイムで伝える狙いなどで無料貸与を決めた。
地域のコミュニティーで独自にサポートする動きもある。約2千世帯が暮らす横浜市の竹山団地では、在宅診療に訪れる横山医院在宅・緩和クリニック(同市)のスタッフらが「スマホセンター」を設置。常設の場所はないが、要望に応じて対面やLINEで相談を受けている。
団地を寮として使う神奈川大のサッカー部員らとは交流機会を設け、スマホを介した若い世代とのコミュニケーションづくりに役立てる。同院の横山太郎院長(41)は「住民の孤立解消につながるし、若い人も高齢者と接することで学ぶことが多い」と話す。