放課後にマウンテンバイクの技を練習する落合思誉運さん=雲南市木次町木次
放課後にマウンテンバイクの技を練習する落合思誉運さん=雲南市木次町木次

 マウンテンバイクで急斜面を下るダウンヒルの全国大会で先月優勝した落合思誉運(しょん)さん(16)=雲南市木次町木次=は、松江養護学校乃木校舎高等部の2年生だ。小学生のとき自閉症スペクトラム症と診断された。文字の読み書きは苦手だが、好きなことへのこだわりと情熱は人一倍強く、徹底したコースの下見が奏功し、頂点を勝ち取った。

 落合さんは10月24日に山口市であった第34回全日本自転車競技選手権マウンテンバイク・ダウンヒル競技男子ユースの部(17歳未満)で、2位と0・08秒差の接戦を制し優勝した。小学生から始めた常連が多い中、競技歴1年半の落合さんは、突如現れた新星だった。

 自転車を購入したのは中学2年の終わり。地元のサイクルイベントで楽しさを知り、中学卒業と同時に本格的に取り組んだ。

 平日は、午後5時から同9時までロードバイクでバランス力を鍛えたり、マウンテンバイクの技を練習したりする。週末は県内の山の斜面に造られたコースで感覚を養う。

 競技を始めて初の大舞台となる全日本選手権で、落合さんは試走時に、石や木の根、ぬかるみなどをくまなくチェックし、すべて記憶した。本番で危険な箇所を避けて走行でき、タイム短縮につながるためだ。

 指導する自転車販売TECH.cyclebuild(テック サイクルビルド)(出雲市)陰山玄交店長(45)は、「徹底したコースの観察が勝因の一つ。記録はプロレーサーに肉薄しており、世界を目指してほしい」と期待する。

 中学までは、障害で漢字や文章を理解することが難しく、自信を持てなかったが、競技を通じて山や林に関心を持ち、農林系の学校に進学したいと思うようになった。

 落合さんにはもう一つ願いがある。写真でしか見たことのない英国人の祖母に、自転車で有名になって会うことだ。

 来年の次大会は、プロレーサーも出場する17歳以上の「エリートクラス」に挑む。上位に入ればアジア選手権、その先に世界選手権が待つ。「世界チャンピオンになる」。強い意志を抱き、大好きな自転車にまたがる。
     (増田枝里子)