避難経路を眺める青山光義さん。原発事故時の対応に不安を募らせる=松江市鹿島町佐陀本郷
避難経路を眺める青山光義さん。原発事故時の対応に不安を募らせる=松江市鹿島町佐陀本郷
避難経路を眺める青山光義さん。原発事故時の対応に不安を募らせる=松江市鹿島町佐陀本郷

 山陰両県の県境をまたぐ中海・宍道湖圏域の中軸となる出雲、松江、米子の3市長選が4月、相次いで実施される。地域のリーダーを決める戦いの結果は、圏域の行方に大きく影響する。「三都」に問われる課題を検証する。

 中国電力島根原発から直線距離で約2キロの松江市鹿島町佐陀本郷。自宅で車いす生活を送る青山光義さん(72)は言う。

 「わしら障害者のことをちゃんと考えている避難計画とは思えない」

 14年前に交通事故に遭った青山さんは同年代の妻との2人暮らし。自家用車は持っていない。原発で事故が起きた場合は島根県や松江市の広域避難計画に沿い、県が手配する福祉車両で大田市に逃げることになっている。

 だが、車両がどこから来るのか、妻も同乗できるのかどうか、市から説明を受けたことはない。わずかな段差を自力で乗り越えるのも困難で、避難先での生活を含めて不安だらけだ。

▽住民理解深まらず

 県庁所在地で唯一、原発が立地する松江市。自主避難が難しい高齢者や障害者といった「要支援者」は5キロ圏に1757人、5~30キロ圏に2万8876人が暮らす。ともに全国最多だ。

 原発事故に備えた広域避難計画は、5キロ圏の住民避難を最優先し、5~30キロ圏の住民は屋内にとどまってその後の指示を待つ「段階的避難」が前提だ。

 ところが、2019年に県が5~30キロ圏の松江、出雲、安来、雲南4市の住民の一部に意識調査をしたところ、3割強が「(指示に従うか)分からない」、「(すぐに)避難する」と回答した。10年前の東京電力福島第1原発事故時のように「われ先に」と逃げる人が相次ぐと大混乱で福祉車両の確保が難しくなるのは必至だ。

 「事故が起きたらおしまい。迷惑をかけるからずっと家におる」と諦めを口にする青山さん。圏域全体で住民が避難計画に理解を深め、確実性を高める必要があるが、道半ばだ。

▽鳥取の中学訓練なし

 県境を越えると、住民の意識は一段と下がる。市全体の24%に当たる3万5千人が30キロ圏に住む周辺自治体の米子市も例外ではない。

 山陰中央新報社が2月に実施した中学校の防災教育アンケートで、過去2年間に原子力災害に特化した避難訓練を行ったと回答したのは鳥取県内でゼロだった。中学校関係者からは行政の関与を求める声が上がった。

 推進、反対の双方の立場から原発問題を考える市民団体「鳥取県民連絡会」の河合康明共同代表(68)は「原発問題は将来世代にも影響を及ぼす」と指摘。事故時に影響が避けられないとして、米子市に対して市民の関心を高める機会をつくるよう訴える。

▽中電はゼロ回答

 周辺自治体にとっては、原発稼働に対する意向反映の仕組みづくりも積年の課題だ。立地自治体と同様に防災態勢の整備を義務付けられたものの、原発稼働に関する事前の同意権限は認められていない。

 30キロ圏に市人口の70%(12万3千人)が暮らす出雲市は、独自の専門家会議を設け、原子力防災の専従職員2人を配置。池田一弘原子力防災室長は「リスクを負う以上、発言権を求める」と訴え、県内他市と立地自治体並みの安全協定の締結を求めるが中電は「ゼロ回答」を繰り返す。

 原子力規制委員会による島根2号機の新規制基準適合性審査が最終盤に差し掛かり、出雲、松江、米子の3市長は新たな任期中に再稼働の地元同意の手続きに向き合うことになる。市民の安心安全を守るには、個々の政治判断はもとより圏域の連携が欠かせない。