気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は、産業革命以降の気温上昇を「1・5度に抑えるための努力を追求すると決意する」などとした成果文書を採択して閉幕した。1・5度目標の実現に向けた国際的な意思が示された意義は大きいが、実際の排出削減につながる成果は乏しい。各国が今後、削減のための行動をどれだけ強化できるかが問われる。
パリ協定は、産業革命以来の気温上昇を2度より十分低くし、1・5度に抑えるための努力を続けることを目標として掲げた。採択からの5年間、2度ではなく1・5度を目指すことの重要性が鮮明になってきた。
世界各地で深刻な自然災害が多発、豪雨や干ばつによって多くの人が命を落とす事態となる一方、科学者によって、2度と1・5度とでは気候変動の影響が大きく異なることが示されたからだ。
日本を含め多くの国が2050年に温室効果ガスの排出を実質的にゼロにすることを表明したのも、それが1・5度の実現に不可欠だからだ。
パリ協定では努力目標にすぎなかった1・5度が今回、国際社会が目指すべき重要な到達点として明確にされたことは歓迎したい。だが忘れていけないことは1・5度のためには50年の実質ゼロだけでは不十分だという事実だ。実現のためには30年には10年比で45%程度の排出削減が必要とされる。
COP26の期間中に示された試算では、各国の30年の温室効果ガス排出削減目標を達成しても、産業革命前からの世界の気温上昇は今世紀末までに2・4度に達する恐れがある。
特に主要な排出国の削減対策が急務なのだが、実用化されていない新技術をあてにできない分、直近の大幅削減は50年実質ゼロを言うよりもはるかに難しい。
排出量は増加傾向にある上、これまでの対策が遅れたため1・5度目標の命脈は絶たれつつあるのが実情だ。今回の合意はカンフル剤ではあってもそれによって1・5度目標が命を吹き返したというにはほど遠い。
COP26の合意には「必要に応じて、22年末までに30年の削減目標を再検討し、強化するよう(各国に)要請する」との文言も盛り込まれた。今回の成果を口先だけのものに終わらせないために、日本も対策の点検と見直しが急務となる。
しかし、この点についての現政権の姿勢には落胆させられる。石炭火力発電を一刻も早く廃止するべきだとされるのは、それが短期的な大幅削減にとっての可能かつ効果的な対策であるからなのだが、日本は今後、長期間、石炭火力への依存を続ける方針だ。
岸田文雄首相がスピーチで強調したのは「アンモニアや水素を活用した排出ゼロ火力」という非現実的と指摘される対策だった。環境保護団体が対策に不熱心な国に贈る「化石賞」を受賞したのも当然だ。
会場の外には、自分たちの未来が危うくなると訴える多数の若者たちがいた。だが短時間の滞在で帰国の途に就き、日本の若者が手渡そうとした手紙の受け取りを拒否した岸田首相にはその声は届かなかったようだ。
世界の気候は危機的状況であるにもかかわらず、日本の政治家や企業、メディアなどの関心は低い。社会全体での危機感のなさに危機感を覚えずにはいられない。