バイデン米大統領と習近平・中国国家主席のオンライン形式での初の首脳会談は、予想通り双方が主張をぶつけたままで終わり、激しい競争をあらためて印象付けた。だが両首脳はこれを出発点に対話を深め信頼関係を醸成すべきだ。世界の平和と繁栄を左右する両大国の責任は重いことを自覚してほしい。
会談ではバイデン氏が「競争制御のためのガードレールづくり」を唱え、習氏は「平和的な共存、協力」を訴えた。関係安定化を目指す両首脳の姿勢は歓迎したい。問題はその実現に向けた努力である。
焦点となるのは台湾問題だ。習氏は首脳会談で「台湾は中国の一部であり、独立勢力がレッドラインを突破すれば断固とした措置をとる」と述べ、軍事力行使も辞さない決意を強調した。今月開かれた中国共産党の重要会議で同党史上40年ぶりの「歴史決議」の採択にこぎ着け権威を高めた習氏が、残る課題である台湾統一の準備を加速するとの見方も出ている。
これに対してバイデン氏は「平和と安定を損なう行動に強く反対する」と語り、習氏をけん制した。バイデン氏は最近、米国に台湾防衛義務があると発言し、日米豪印の「クアッド」や米英豪の「AUKUS(オーカス)」など同盟・友好国との対中連携を深めている。
ただ、バイデン氏は「一つの中国」政策は守ると表明し、台湾独立を支持しない立場を堅持した。習氏も「平和統一に向け最大限努力する」と述べ、決定的な衝突は回避できる余地が残されている。台湾をめぐる軍事衝突という最悪の事態を回避する意思疎通の仕組みを両国政府間、軍指導部間でつくる必要がある。
香港や新疆ウイグル自治区の人権や民主主義をめぐる問題ではバイデン氏の懸念表明に対して、習氏は「内政干渉」として拒否した。双方の立場の違いは容易に埋まらず、今後も対立の種になり続けるだろう。
一方で対立一辺倒で「新冷戦」と称されたトランプ政権に代わって、中国との「競争と協調」を掲げるバイデン政権の誕生で、いくつかの歩み寄りも始まった。
気候変動対策はその一つである。国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では両国は協力をうたった共同宣言を発表した。作業部会も設置する。ケリー米大統領特使と解振華・中国特使はCOP26全体を通じて良好な関係を世界に印象付けた。
経済問題でも米中両国は10月に2回の閣僚級協議を行い、中国による米産品の輸入拡大や米国の制裁関税の緩和・撤廃問題を協議した。米実業界からは米中ビジネスの活発化を望む声も聞かれている。
これらを踏まえて習氏は会談で「中国企業への圧力をやめるべきだ」と指摘。バイデン政権は経済安全保障を重要政策としており、中国企業への制裁措置の行方が米中関係を占うことになる。
ぜひ米中が協力して取り組んでほしいのは北朝鮮の核・ミサイル問題だ。北朝鮮は迎撃困難とされるミサイル実験を続けており、日本への脅威は増している。その北朝鮮に抑制を促せるのは米中だけなのだ。
米中両国の信頼醸成は東アジアを安定させ、両国と深い関係を持つ日本の国益でもある。日本も対話の深化に向けた両国への働きかけを強めたい。