日本大学医学部付属病院の医療機器導入で大学の資金を不正流出させ損害を与えたとして、東京地検特捜部は背任罪で日大元理事の井ノ口忠男容疑者ら2人を追起訴した。付属病院建て替え工事を巡る起訴内容と合わせ、不正流出は計4億円余り。日大トップの田中英寿理事長についても関与を慎重に調べたが、現時点で立件を見送った。

 田中氏の「最側近」といわれる井ノ口被告と、大阪市にある医療法人・錦秀会前理事長の籔本雅巳被告はそれぞれ、田中氏側に数千万円の現金を渡したと供述。田中氏は任意聴取で現金授受を全面否定した。さらに「日大は損害を受けていない」として、大学としての被害届提出を拒んでいる。

 その田中氏はこれまで記者会見もせず、沈黙を守っている。しかし流出資金は元をたどれば、学生の授業料や国から交付された助成金などで、大学の信用を深く傷つけた。学生や保護者、OBらも被害者といえ、大学のトップとして、なぜ、こんなことが起きたのか、公の場で説明を尽くした上、自らの責任を明確にする必要がある。

 大学としての危機対応も鈍い。アメリカンフットボール部の危険タックル問題で批判を浴びたガバナンス(組織統治)の欠如が再び浮き彫りになっている。有識者から成る第三者委員会を設置し、独自に事実関係や背景を徹底検証すべきだ。自浄力が問われている。

 日大アメリカンフットボール部の選手が2018年5月の試合で相手チームの選手に危険なタックルを仕掛け、負傷させた問題で日大の第三者委は約3カ月後に報告書をまとめ、大学による事後対応の遅れを指摘。田中氏が公式な場に姿を見せず、理事長としての説明責任を果たしていないと厳しく批判した。同じことが今回も起きている。

 事件の背景には08年から理事長の職にあり、理事や幹部の任免に絶大な権限を持つとされる田中氏の影響力が見え隠れする。井ノ口被告は大学の全額出資で設立された「日本大学事業部」を任されて業績を伸ばし、17年に理事に就任。コーチを務めていたアメフト部のタックル問題で加害選手らに口封じを図ったことが分かり、理事を辞任して、事業部も離れた。

 ところが19年12月に取締役として事業部に戻り、20年9月に理事に復帰した。保険代理店事業や自動販売機の管理、資産管理など幅広い業務を手掛ける事業部を掌握。全てを取り仕切るようになり、不透明さも指摘されたが、学内で全くチェックが働かなくなった。

 そうした中、井ノ口被告は昨年7月から今年5月にかけて、付属病院建て替え工事や医療機器納入などで、本来は取引に不要な籔本被告の関係する会社を介在させるなどして大学の資金を流し、計約5千万円の利得を手にした。籔本被告も約1億円を得たとされる。

 井ノ口被告にはさらに約4千万円が入ることになっていたが、特捜部が9月に強制捜査に着手し、取りやめたという。

 特捜部は田中氏が井ノ口被告らによる資金流出の仕組みを認識していたとまでは言えず、背任罪に問えないと判断したとみられる。とはいえ、田中氏の現金授受疑惑もくすぶり続ける。教育機関として失った信頼を取り戻すために、日大は経営体制の見直しも含め、思い切った改革に踏み出すことが求められよう。