来年4月の改正少年法施行に伴い、裁判員の選任年齢が「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられる。来秋に作成される翌2023年分の裁判員候補者名簿から適用され、18、19歳が実際に法壇に立つ可能性があるのは同年1月からだ。もちろん高校生が裁判員になることもあり得る。
12年が経過した裁判員制度の重大な変更だが、驚くことに国会での議論の形跡がない。その結果、未解決の課題や疑問が山積みだ。立法府の怠慢と言わざるを得ない。
経緯はこうだ。
もともと裁判員法は「裁判員は衆議院議員の選挙権を有する者から選任する」と規定。16年の改正公選法施行で選挙権は「18歳以上」となったが、少年法の対象である18、19歳が裁判員になることの是非が議論され、公選法の付則に「当分の間」として裁判員就任禁止が盛り込まれた。
これは、成人年齢を18歳に引き下げる18年の民法改正(来年4月施行)の際にも維持された。今回、18、19歳を引き続き少年法の対象としながら「特定少年」とし、刑事責任追及などに関して20歳以上に近い扱いとする法改正に当たり、少年法の付則で公選法の付則(裁判員就任禁止)を削除した。複雑で分かりにくい改正形式だ。
衆参両院の法務委員会議事録を開いても、少年法本体の改正議論に隠れて、裁判員年齢の質疑は見当たらない。
「特定少年」と言いながら、少年法の対象であることに変わりがない18、19歳が本当に人を裁いていいのか。多感な時期に生々しい証拠に触れるなど心理的負担は大きいはずだが、配慮は必要ないのか。
裁判員が選任手続きや公判などで裁判所に足を運ぶ平均日数(20年)は7日に上るが、高校生裁判員の学校欠席の扱いはどうするのか。授業の補習などは…。これらがはっきりしないと、法が学生、生徒に認める辞退の申し立てをするかどうかの判断すらできない。
議論すべきことは山ほどあったが素通りされた。高校生の扱いについて、文部科学相は今もって「法務省と連携して、学校現場などの意見をまず聞きたい」と言うにとどまっている。
改正少年法が成立したのは今年5月のことだ。国会での議論がなかったためか、その後3~4カ月は、裁判員制度の改善などに取り組む弁護士らですら、年齢引き下げを知らなかったという。国民の理解が得られなければ機能しない制度なのに、である。
本来なら法相や最高裁長官が、直接国民に呼び掛けてもいい重要テーマだが、法相が初めて公式に発言したのは11月初め。それも閣議後会見で記者の質問に、簡単に事実関係を紹介した程度だった。最高裁刑事局長も10月末に、ラジオの政府広報番組でひと言、言及した。
国民に広く議論してもらうには、周知が大前提だ。法務省、最高裁ともにパンフレットを作成、年内にも高校、専門学校といった関係先に配布するなどし、ホームページでも大きく取り上げて、積極的な広報に努めるとしているが、遅いのではないか。もっと加速してもらいたい。
18歳以上の裁判員候補者に名簿登録の通知が届くまで、あと1年。多くの課題を議論し、国民の理解を得るのに、決して時間的余裕はない。