政府は、新型コロナウイルス感染が今後再拡大し緊急事態宣言を出した場合でも、ワクチン接種済証か検査の陰性証明を提示する「ワクチン・検査パッケージ」を活用すれば、飲食店利用時の人数制限を撤廃し、イベント参加を定員の100%まで認める行動制限緩和策を決めた。今月下旬から適用される。

 冬に懸念される「第6波」に備え、医療提供体制を強化しながら経済活動を本格的に再開させる狙いだ。だが急激なリバウンドが起これば、医療は一気に逼迫(ひっぱく)する。長いコロナとの闘いで国民生活は疲弊しており、感染が下火になれば経済を回していく方向は妥当だ。それでも状況が変われば止まり、後戻りできる構えを崩してはならない。

 現行のイベント人数上限は、緊急事態とまん延防止等重点措置の対象地域で5千人または定員の50%の少ない方。他の地域は5千人または定員の50%の多い方で、どこにも緊急事態などが出ていない現在も定員5万人のイベントに2万5千人までしか入れない。今回の緩和は、主催者が感染防止安全計画を提出しパッケージを使えば宣言対象地域でも上限をなくす。

 大半の会場で無観客開催を余儀なくされた7~9月の東京五輪・パラリンピックを思い返せば、スタジアムが数万人の観客で埋まる光景が復活することは感慨深い。同時に、ワクチン接種が進んだ欧州などで感染再拡大が起きているのを見れば、その轍(てつ)を踏まないかと不安になるのも当然だ。

 政府は飲食店について現在、原則4人以内での会食を要請している。緩和策は、パッケージ活用により緊急事態宣言などの対象地域でも人数制限をなくし、感染対策の認証店は酒類提供を認める。同様にパッケージを使えば、宣言下でも都道府県をまたぐ旅行や出張を自粛対象から外す。

 ワクチン2回目を終えた人が人口の75%を超え、年内にも3回目の接種が始まることを踏まえれば、飲食や旅行関連の業界を支援するためにも可能な限り制限をなくすのは好ましい。だが、宴会や帰省、旅行などで人の移動、交流が増える年末年始には、やはり石橋をたたいて渡るような対処が必要ではないか。

 この点で注目したいのは、昨年7月にスタートしたが「第3波」で年末に停止となった観光支援事業「Go To トラベル」再開を巡る政府の動きだ。業界は年内の早期再開を求めたが、岸田文雄首相は「ワクチン接種と経口治療薬の普及の様子を見ながら考えなければいけない」と慎重姿勢を示し、年明けの1月下旬以降に先送りした。

 飲食業界支援策「Go To イート」についても政府は、プレミアム付き食事券の販売を年末年始は抑制するよう自治体に呼び掛けている。

 GoTo事業は感染拡大に拍車を掛けたとコロナ失政の象徴のように批判され、菅義偉前首相は支持率低迷に陥った。事業再開での二の舞いを恐れ、年末年始を避けたわけだ。ならば今回の行動制限緩和はなぜ11月からなのか。矛盾が否めない。

 政府はパッケージ活用の制度要綱に「感染が急拡大し、医療提供体制の逼迫が見込まれる場合は適用せず、強い行動制限を要請することがある」と記した。「することがある」は何ともあいまいだ。危機感が高まればブレーキを踏むと明確に国民に約束するべきだ。