コロナ禍でALS患者が置かれる窮状をまとめた、日本ALS協会島根県支部の景山敬二支部長(左)と諸岡了介書記=松江市内
コロナ禍でALS患者が置かれる窮状をまとめた、日本ALS協会島根県支部の景山敬二支部長(左)と諸岡了介書記=松江市内
コロナ禍でALS患者が置かれる窮状をまとめた、日本ALS協会島根県支部の景山敬二支部長(左)と諸岡了介書記=松江市内

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う病院などの面会制限が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の入院患者や家族に影響を及ぼしている。意思の疎通が難しいため、家族らが寄り添うことが大切だが、事実上の「隔絶状態」が続いている。病院側の柔軟な対応は不可能なのか。

 日本ALS協会島根県支部は10月上旬、コロナ禍の患者の現状に関する聞き取り調査をした。

 それによると「病院の面会は、1カ月に1回、5分間」「昨年12月から今年10月まで面会禁止が続いている」など切実な声が寄せられた。

 ALS患者は、寝返りや室温調整といった身の回りの世話、文字盤を使う意思疎通などに周囲の協力や細かな気配りが必要。入院療養中は、家族らが多忙な医療従事者の手が回らない部分を担うが、コロナ禍での病院の面会制限で、それが十分にできない状態が続いている。

 結果を踏まえ、ALS患者でもある景山敬二支部長(61)は「ただでさえ疎外感があるが(面会制限で)一層増している」と分析。「2週間以内の他県への移動歴がない家族」といった条件で、面会機会の拡大検討を訴える。

 しかし、病院側からは感染リスクをゼロにはできないといった理由から、困難との反応が多い。県東部の総合病院の担当者は、平等という観点で「この人(面会希望者)は病院に入れる、入れないと容易に分けられない」と話す。

▽介護疲れと人手不足

 背に腹は代えられないとALS当事者は自宅療養を選んだり、家族の負担軽減のための一時入院「レスパイト入院」の利用回数を減らしたりしている。

 直面するのが、四六時中患者を支える家族の介護疲れと、ホームヘルパーの不足感だ。

 2019年1月にALSと診断された吉岡哲也さん(61)=松江市東津田町=は、妻の助けで毎日着替えや食事、入浴介助を受けながら、週に2、3回程度、訪問介護サービスを受ける。コロナ禍の現状ではサービスの拡充は不透明だといい「妻の負担が増すのが心配」と懸念する。

 出雲市内で居宅介護支援事業所を運営し、ALS患者の介護も担っているケアマネジャーの山本由典さん(45)は「訪問介護事業所の中でもALS患者に対応できる所は希少で、人手の不足感は大きい」と指摘する。

 コロナ禍で事態は悪化した。ヘルパーは通常業務に感染対策が加わった上、がんの終末期で自宅療養を選ぶ患者が増えるなどニーズが高まった。こうした事情をALS患者は理解するだけに、従来のケアが受けられるかどうか悩みが尽きない。

▽長期間の精神的苦痛

 コロナ対策に気が抜けない医療機関の理屈はよく分かる。しかし、ワクチン接種が浸透するなど、状況は変わりつつある。介護士不足は積年の課題だが、少なくとも、面会制限の緩和は検討されるべき事柄ではないだろうか。

 障害学会前会長の立岩真也立命館大教授は、感染拡大が落ち着いた時期にPCR検査で陰性だった家族に限り、筋ジストロフィー患者との面会を可能にしている病院の事例を紹介。「長期間、患者が強いられている精神的な苦痛に目をつむり続けていいのか。できているところに合わせて判断すべきだ」と強調する。

 医療従事者の苦労に感謝しながら日々を過ごすALS当事者が、直接施設に声を上げるのは現実問題として難しいことから「周囲が声を上げるべきだ」とする。

 病院の管理者だけで判断が難しいなら、自治体も交えて検討することはできるはずだ。

 日ごとに会話が難しくなると実感する吉岡さんは自宅のベッドで声を絞り出した。「コロナ禍で何もできずに時が過ぎる心境は決して穏やかではない。それでも、できること、やるべきことをしたい。今この瞬間も」

 

▼ALS(筋萎縮性側索硬化症) 体を動かす神経が徐々に侵され、全身の筋肉が動かなくなる病気。特定疾患に指定され、有効な治療法はない。視覚や聴覚といった五感や脳の活動は正常に保たれるが、呼吸筋が低下すると自力で呼吸ができなくなり、人工呼吸器が必要になる。島根県内の患者は81人(2020年9月末現在)で、長期入院が33人、在宅療養が48人となっている。