厚生労働省は子宮頸(けい)がんなどの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチン接種について、来年4月から積極的な勧奨を再開することを決めた。諸外国では有効性を示す結果が報告されており、科学的に妥当な結論だ。勧奨中止の理由となった、接種後の症状を巡る社会的混乱を繰り返さないよう、今度こそ万全に備え、本来の目的であるがん予防につなげたい。

 子宮頸がんは国内で年間約1万1千人が新たに診断され、3千人近くが亡くなる病気だ。ワクチンは感染予防に効果があるとして2013年4月、小学6年から高校1年の女子を対象に、公費で負担する「定期接種」が始まった。

 だがその直後から、接種後に全身の痛みやしびれなどの症状を訴える人が相次ぎ、国は同年6月、積極的勧奨の中止を通知。公費負担は維持したが、対象者への通知はなくなり、一時のはずだった中止措置は8年に及んだ。その結果、中止前に70%を超えていた接種率は1%を下回った。

 この間に諸外国では接種の普及により前がん病変の発生が抑えられたとの報告が増え、子宮頸がんの発生や死亡の減少の研究も進む。彼我の差は拡大し、世界保健機関(WHO)専門委員会が15年「日本は予防できるがんに無防備だ」と批判する事態に至っていた。

 ワクチンの接種では副反応や、副反応を疑わせる事例は必ず起こる。がん死を防ぎ、将来世代を守る目的を掲げるならなおさら、対策を手厚く講じ、安心して接種できることを示すべきだ。

 まず接種後に生じた、健康に好ましくないあらゆる出来事を意味する「有害事象」を迅速に収集するシステムを整えたい。

 厚労省は、重い症状になる人が1万人に5人いるとしている。副反応疑い事例の探索やその傾向の把握を早め、必要に応じて対策を講じる。同時に、匿名化したデータを広く研究に提供し、治療法の開発や支援につなげる。すべてのワクチンをカバーする共通システムの開発と分析に当たる専門家の育成を図りたい。

 安全性や効果についての正確な情報提供も必要だ。不安をあおる情報があふれる中、特設サイトや相談窓口で説明を重ね、大きな混乱なく迅速な接種拡大につなげた新型コロナウイルスワクチンの経験が参考になる。

 重い被害を訴えている人たちへの支援は必須だ。国は既に、副反応疑い症例の治療に当たる協力医療機関を設け、治療費を公費負担している。ただ、勧奨再開で接種が増えても対応できるかどうか。十分な受け入れ能力を確保してほしい。

 厚労省は、勧奨中止期間にワクチンを打たなかった女性への無償接種も進める方針だ。ワクチンには、本来の対象年齢を過ぎ、成人になっても、一定の予防効果があるとの報告がある。制度化するにとどまらず、希望者を取りこぼさない積極的な啓発を求めたい。

 男性への接種も検討課題だ。HPVは性行為で感染するウイルスであり、男性の肛門がんなどの原因にもなる。このため厚労省は昨年、9歳以上の男性へのワクチン接種を承認した。

 男性の接種は任意で自費負担だが、公的負担の定期接種とするべきかどうか、先例のある諸外国のデータも含めて検討を続けてほしい。