真実は人の数だけ存在する―。インターネットで自分が信じたい物語にだけアクセスできるようになった昨今、その言葉は面妖な姿で私たちの前に立ちはだかっている。

 ゆがめられた事実の危うさとは慎重に距離をとる必要があるが、現実に対して冷笑的にふるまうのもやっぱり違う。寄り添うことと眺めること。その繰り返しを根気強く促すような余白をもたらすのが、文学の力のひとつでは...