「年内」「現金一括」が可能になった18歳以下への10万円相当給付。年の瀬が迫る中、実現を目指す自治体は、議会との調整や財源確保に忙殺されている。所得制限に関しては、撤廃すれば財政負担が重くなるため、大都市を中心に維持へ傾いている。
滑り込み提案
給付方法は(1)現金5万円とクーポン5万円分(2)現金10万円一括給付(3)現金5万円を2回―の3方式があり、どの方式で、いつ配るかは各市区町村に委ねられる。
和歌山市は、児童手当の給付で口座情報を把握している世帯を対象として28日に10万円を一括給付する方針だ。すでに12月議会で、現金5万円分の給付に必要な費用を盛り込んだ補正予算が成立。最終16日に総額26億円の補正予算案を滑り込みで追加提案し、実現にこぎ着ける。
財源は自治体の貯金に当たる財政調整基金を取り崩し、市でいったん立て替える。2021年度補正予算案が国会で成立しておらず、国からお金が届かないためだ。
国の説明が二転三転し、時機を逸した自治体も多い。東京都練馬区は当初方針を維持し、年内と年明けに5万円ずつ配る。担当者は「給付対象者が多く、振り込み手続きに時間がかかる。急に一括が可能と言われても財源確保が間に合わない」と説明した。
相当額の財源
給付方法と時期だけでなく、給付対象者も地域によって変わる。市区町村が年収960万円の所得制限を撤廃し、自前の財源で幅広い世帯に給付することが認められたためだ。
山形県鮭川村は、本来は所得制限で給付されない2世帯の子ども3人を対象に追加、10万円を一括給付する意向という。担当者は「子育て施策に力を入れており、村内の公平性も考慮して決めた」と話す。
「制限なく10万円を給付するには相当額の財源が必要になる」と語ったのは、東京23区の担当者。この区では子育て世帯の半数程度が所得制限を超えているといい、大都市部での制限撤廃は困難との見方を示した。
一橋大の辻琢也教授(行政学)は「そもそも10万給付の是非や、所得制限の有無といった前提となる議論が不十分だった」と指摘。「政治的判断で自治体の対応が分かれることになった以上、現金とクーポンでの効果の差や経費の検証など客観的な評価まで責任を持つべきだ」と語った。
3方式 自治体判断に 政府が指針通知、なお暫定
政府は15日、18歳以下の子どもへの10万円相当の給付に関する指針を全国の自治体に通知した。現金5万円と5万円分のクーポンを2段階で給付する方式を基本とする姿勢は維持しつつ、10万円の現金一括給付と、現金5万円を先行分と追加分で2回給付する3方式を示した。どの方式を選ぶ場合でも条件は付けず「地域の実情に応じて自治体の判断により可能」と明記した。
ただ今回の指針は「暫定版」で、国会で審議中の2021年度補正予算案の成立後、速やかに正式なものを送付するとしている。これまでの記者会見で山際大志郎経済再生担当相は、自治体が独自財源で政府の所得制限を撤廃して10万円を給付することを容認する考えを示しているが、今回の指針では触れていない。
0~15歳の中学生以下を対象とする先行分の現金5万円の給付は21年度の予備費が財源となっており、児童手当の仕組みを活用して申請不要で届ける。指針では、この5万円は可能な限り年内に給付するよう要請した。
中学生以下への追加分の5万円や、対象者からの申請を受けて届ける高校生世代への給付は補正予算が財源となるが、国会での成立前に10万円を一括給付しても事後的に自治体に補助金を手当てすると記載した。
給付を巡っては、岸田文雄首相が衆院予算委員会で方針を打ち出したが、従来の政府の説明から大きく方向転換したため、文書で改めて示した。これまで方針が二転三転したことで自治体に混乱が広がっており、収束を図りたい考え。既に京都市や大阪市、高松市などが現金一括支給の方針を表明しており、さらに他自治体にも同様の動きが広がっている。













