政府は、一般会計の歳出総額が107兆5964億円と10年連続で過去最大を更新した2022年度予算案を決定した。成長重視の岸田文雄首相による「16カ月予算」の考え方の下、今月成立した21年度補正予算と合わせて143兆円余りの莫大(ばくだい)な財政出動となる。
新変異株「オミクロン株」の影響が懸念される中、新型コロナウイルス対策に予算面で万全を期すことに異論はない。しかし、予算編成の前提としてコロナ禍からの景気回復を見込む一方、深刻な財政状況の中で、必要な支出に絞り込めたか疑問符が付く。補正とともに「規模ありき」に陥っていないか、国会で厳しく問われるべきだ。
歳出が膨らんだ要因の一つは社会保障費だ。高齢化の加速で医療や介護の費用がかさみ、前年度より約4400億円多い36兆2735億円を計上。これとは別にコロナ対策の予備費として5兆円を盛り込んだ。
「団塊の世代」が75歳以上になることで社会保障費は今後さらなる膨張が見込まれる。収入に余裕のある高齢者の一層の負担増など、岸田首相には痛みを伴う制度改革を先送りせず、実行に移す覚悟を求めたい。
防衛費の増勢にも歯止めがかからず歳出全体を押し上げた。中国の軍備拡大を念頭にミサイル防衛などを強化するためで、5兆4005億円と10年連続で前年度を上回り、過去最大となった。
防衛費で見過ごせないのが本予算の「表玄関」でなく、補正予算という「抜け道」を使った増額が常態化している点だ。
21年度補正予算では、補正として過去最大の7738億円が確保された。国民の目が届きにくく国会審議も十分と言えない補正を通じたこのような拡大手法は、政府の安全保障政策への信頼を低下させるだけであり慎むべきだ。
一方の歳入では、65兆2350億円と過去最高の税収を見込んだ。コロナ禍からの経済活動の再開を織り込んだため法人税や所得税が増加。最大の税収項目である消費税は21兆5730億円に達する見通しだ。
政府は予算の前提となる22年度の成長率を実質3・2%と想定した。税収増はこの強めの景気回復を反映したもので、補正の経済対策による成長押し上げを描く。その効果を認めるとしても、今回ほどの財政出動は過大ではないか。
20年度は補正予算を3回も編成した結果、執行しきれず21年度に繰り越された予算が30兆円を超えた。その教訓が生かされず放漫な予算編成になったと指摘したい。
税収が増えることで国の借金である新規国債の発行は36兆9260億円と、当初予算段階で2年ぶりに減少する。
だが、これをもって財政健全化の前進と見るのは早計だ。日本の長期債務残高は22年度末で1243兆円に上る見通しで、主要国最悪の財政状態に変わりはないからだ。
岸田首相は成長優先を強調し、財政再建との「順番を間違えてはならない」と繰り返す。しかし、それでは財政や社会保障に対する国民の将来不安に向き合っているとは言えない。この不安が消費不振の一因になっていると指摘される。
欧米の主要国は財政状態を検証・提言する独立機関を設置済みだ。健全化への着実な一歩のため、日本も同様の仕組みを設けるときではないか。