政府は、医療機関に支払う診療報酬の改定率について2022年度は医師らの人件費や技術料などに当たる「本体」部分を0・43%引き上げると決めた。医薬品と医療材料の価格である「薬価」部分は1・37%引き下げ、全体では0・94%のマイナス改定となる。
診療報酬は2年に1度改定され、今回は新型コロナウイルス禍が顕在化してから初めての改定だ。本体をわずかながらプラスとしたのは、高齢化で膨らみ続ける医療費の抑制を図る一方で、コロナ対応により医療機関が経営面で疲弊しているのに配慮した結果といえよう。コロナのような感染症に強い医療体制を構築する一歩としてほしい。
今回の改定では、病院や診療所の経営に対するコロナの影響をどう見るかが焦点となった。
厚生労働省の実態調査によると、20年度の国公立を含む一般病院の利益率は6・9%の赤字で19年度より悪化。コロナ患者を受け入れた場合などには医療機関に補助金が出ているが、この補助金を含めてやっと0・4%の黒字というレベルだった。特に公立病院の経営状況は厳しく21・4%の赤字で、補助金を加味しても7・3%の赤字に落ち込んだ。
感染拡大に伴う患者の受診控えや、手術件数の減少などで医療機関の収入が減った結果とみられる。「補助金頼りでは安定した経営はできない」と日本医師会や厚労省は本体のプラス改定を求めていた。
ただ、民間病院は補助金抜きでも0・1%の黒字を確保しており、財務省は引き上げに反対した。22年には人口の多い団塊の世代が後期高齢者の仲間入りを始め、医療費の膨張が予測されるため、財政当局が懸念するのは分かる。加えて、診療報酬の引き上げは税、保険料、窓口負担の形で国民の負担増につながる。コロナ禍で減収を余儀なくされた国民が少なくない中、医療機関だけ特別扱いとはいくまい。
しかし感染拡大の「第6波」到来に備える医療機関を考慮すれば、今回の本体プラスはやむを得ないのではないか。政権が打ち出した看護師の賃上げや不妊治療への保険適用に財源の確保が必要という面もあるからだ。
目下の課題はやはり、患者が安心できるコロナ対策をどのように進めていくかだろう。
感染拡大期には病床が逼迫(ひっぱく)して多くの患者が自宅療養を迫られた。中小規模の病院が点在しているために、病院ごとでは医療スタッフが不足し患者受け入れがままならないという構造的な要因で起きた問題だ。コロナ禍が始まる前から日本の医療の弱点と指摘されており、効率的な提供体制となるよう医療機関の集約化は避けられない。
重症者と軽症者を分けて受け入れるなど、病院ごとの機能分化と連携強化も求められる。コロナ病床と申告しながら入院できない「幽霊病床」などはあってはならない。
診療所と病院の役割分担も大切だ。地域に密着した「かかりつけ医」をもっと普及させ、普段は在宅医を含む地元の診療所、緊急時は大病院という分担が当たり前になれば、コロナ対応で患者が置き去りにされる事態は減るだろう。オンライン診療の拡充も大事だ。診療報酬改定では年明けから個別の診療サービスごとの価格を決めるが、こうした視点から議論を深めてほしい。