新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の市中感染が各地で相次いでいる。その感染力は強く、既に都市圏を中心に感染拡大が始まったと見るべきだ。

 11月下旬に南アフリカで確認されたオミクロン株は1カ月で世界に広がった。海外から入るのを防ぐ水際対策も引き続き重要だが、人々の移動、交流が増える年末年始の休み期間を迎えた。感染者急増を想定し、検査、医療提供を強化する態勢に軸足を移す局面だ。

 人口が日本の約半分の英国はオミクロン株の1日当たりの新規感染者が2万人を超え、合計11万人を既に上回っている。これらを含むコロナ新規感染者数は連日10万人超と過去最悪レベルだ。フランス、カナダなども過去最多を記録し、米国はオミクロン株主流化により年末までにコロナ新規感染者が100万人に達するとの予想もある。

 日本は24日までのオミクロン株感染者が計200人超。コロナの1日当たりの新規感染者は300人ほどだ。2万5千人を上回った8月に比べると、まだ低レベルだが、欧米の現状を見れば、年明けには規模の大小はあれ、オミクロン株による「第6波」が来る可能性は高い。

 政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長はオミクロン株に関し、海外の流行地域では2、3日で感染者数が2倍になっていると指摘した上で「市中感染が始まると急速に感染拡大する可能性がある」と述べた。重く受け止める必要がある。

 政府は外国人の新規入国を禁止。最短3日間に緩和していた日本人帰国者らの自主待機期間も14日間に戻し、12月からはオミクロン株感染者の濃厚接触者を宿泊施設待機とした。だが海外渡航歴がない人への感染経路不明の市中感染が始まったことは、水際対策が「時間稼ぎ」にすぎない現実を突きつけた。

 今後は、攻めの検査による早期発見から早期治療への連携強化、そして最悪の事態に対応できる病床、宿泊療養施設の確保を早急に進めるべきだ。オミクロン株は重症化リスクが低いとも言われるが、なお不明だ。重症化率が小さいとしても感染者数が膨大になれば病床逼迫(ひっぱく)は避けられない。

 さらにワクチン、治療薬の普及も急務だ。政府はワクチン3回目接種について、医療従事者や高齢者施設の入所者、職員は接種間隔を従来の8カ月から6カ月に前倒しするなど、約3100万人を対象に接種を早める。米製薬大手メルクが開発した軽症者の重症化を防ぐ国内初の飲み薬を特例承認し配送に着手した。

 ワクチンは2回接種ではオミクロン株への効き目が落ちるため3回目接種が急がれる。飲み薬は安全性に課題が残り、当初期待した効果が見込めないとの見方もあり、過信は避けたい。

 一方、岸田文雄首相は年末年始の帰省や旅行について「慎重に検討して」と呼び掛ける程度で自粛は求めない。東京都の繁華街では昨年4月の最初の緊急事態宣言以降で最高水準の夜間滞留人口を記録している。1年前を振り返れば、年末の緩みで感染が急拡大し年明け早々、首都圏への緊急事態宣言発令に至った。

 ここは言われるまでもなく私たちが自らを律したい。大勢が密集するイベント、観光地へは行かず、家族など少人数で過ごす。そうして健康で明るい新年を迎えたい。