対馬海峡の周辺海域で「航行の自由」作戦を実施する米海軍の補給艦「アラン・シェパード」の内部=2020年12月15日(米海軍提供・共同)
対馬海峡の周辺海域で「航行の自由」作戦を実施する米海軍の補給艦「アラン・シェパード」の内部=2020年12月15日(米海軍提供・共同)
対馬海峡の周辺海域で「航行の自由」作戦を実施する米海軍の補給艦「アラン・シェパード」の内部=2020年12月15日(米海軍提供・共同)

 米海軍第7艦隊(神奈川県横須賀市)が昨年末、日本政府による対馬海峡での領海設定の基準を問題視し、周辺で艦艇や航空機を活動させる「航行の自由」作戦を実施していたことが5日分かった。第7艦隊は「過剰な海洋主権への異議申し立て」が目的だったと説明。日本政府は、国際条約に基づく適切な領海設定だと反論している。

 米海軍は国・地域による領有権や管轄権の過度な主張を認めないため、世界のさまざまな海域で「航行の自由」作戦を実施。同盟国の日本にも等しく異議を唱えることで、ルールに基づく国際秩序を守る姿勢を強調し、東・南シナ海で覇権主義的な動きを強める中国をけん制する狙いもある。

 米海軍の補給艦「アラン・シェパード」が昨年12月15日、対馬海峡付近を航行し、艦載ヘリコプターも飛行した。第7艦隊は、作戦対象について日本が領海と主張する海域だとし「国際法に沿った航行の自由を確保するためだ」としている。

 日本政府は長崎県・対馬を含む北海道から沖縄県までの計15海域で領海設定の基準となる「基線」について、干潮時の海岸線(低潮線)ではなく陸地の先端や島を結んだ直線を採用し、1997年1月に領海を広げた。

 米政府は98年4月の国務省文書で、国連海洋法条約が直線基線の適用を認める地形の条件を満たしていないとし「低潮線の使用が妥当だ」と主張してきた。外務省海洋法室は「日本は条約が定める条件に基づいて直線基線を採用している」との立場だ。米国防総省の報告書によると、日本に対する「航行の自由」作戦は、日本が領海を広げた後の99会計年度(98年10月~99年9月)に実施したほか、2010会計年度(09年10月~10年9月)以降も複数回実施。対象海域は対馬海峡や東シナ海としている。

 神戸大の坂元茂樹名誉教授(国際法)は「領海では上空飛行も制限されるため米国は大胆な直線基線に反対してきた。同盟国でも異なる解釈には厳しく対応するという姿勢の表れだ」と話した。

 

■世界の海で機動性確保

 世界規模で展開する米軍は機動性確保を目的に、国際法に沿わないと見なす領海主張や航行制限がある海域で、沿岸国や地域に事前通告せず活動する「航行の自由」作戦を40年以上前から続けてきた。テロとの戦いが優先され頻度が落ちた時期もあったが、海洋支配を進める中国への重要な対抗手段として再認識されている。

 米インド太平洋軍の次期司令官に指名されたアキリーノ太平洋艦隊司令官は3月23日の上院公聴会で、台湾海峡や東・南シナ海で威圧的に行動する中国を念頭に「国際法が許す限り、どこでも活動できることを示すために作戦を続けるべきだ」と意義を強調した。

 米国は作戦と外交努力を両輪として1979年に「航行の自由計画」を開始。イランが軍艦の航行に事前許可を求めるホルムズ海峡や、マレーシアが原子力艦の航行に事前許可を求めるマラッカ海峡などでも艦艇を航行させて制限を容認しない姿勢を強調してきた。

 米海軍大のジェームズ・クラスカ教授(国際法)は「2000年代前半にアフガニスタンやイラクでの戦争の影響で作戦頻度は減ったが、近年は増えている」と話す。

 米国防総省によると、20会計年度(19年10月~20年9月)は韓国や台湾も含む19カ国・地域に関する28の領海主張や航行制限に対して作戦を実施。このうち七つが中国の東・南シナ海での主張や制限だった。

 作戦は超党派の支持を得ており、民主党のバイデン政権下でも今年2月にミサイル駆逐艦が南シナ海を航行している。

 

▽日本の領海 1977年制定の領海法は、基線から12カイリ(約22キロ)の海域を日本の領海と定める。基線は通常、海岸の低潮線を用いるが、日本が96年に批准した国連海洋法条約の7条は、海岸線が複雑に入り組んでいたり、海岸線に沿って島が連なっていたりする場合に陸地の先端や島を結ぶ直線を基線とすることを認める。日本は97年、全国の15海域で直線基線を採用し領海を拡大。新たに領海となった海域で韓国漁船の拿捕(だほ)が相次ぎ、日韓関係が悪化したことがある。