セブン-イレブンの松江市内初オープンの日、大勢の買い物客が押し寄せた店内=松江市大庭町(2015年)
セブン-イレブンの松江市内初オープンの日、大勢の買い物客が押し寄せた店内=松江市大庭町(2015年)

 山陰に全国チェーンの有名店が進出する際は、47都道府県の最後になるケースが多い。山陰が最後尾になる理由はやはり人口が少ないからなのか。全国展開する企業の担当者や企業情報を分析する専門家に聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

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 21日、イタリアンレストラン「サイゼリヤ」が、山陰初の店舗をイオンモール日吉津(鳥取県日吉津村日吉津)内にオープンする。鳥取県への進出により、同社の本州の未進出県は島根、青森、岩手の3県になった。四国、九州地方を除けば山陰両県はほぼ最後になった。

 

 ▼市場環境や顧客ニーズで判断

 玩具・子ども用品総合専門の日本トイザらス(神奈川県)は全国で島根県と山梨県にだけ店舗がない(1月時点)。広報担当者によると、山梨県には2014年まで店舗があったため、過去に出店したことがないのは島根県のみだという。

 四国や九州を含めても島根県が唯一の未進出。他県と違う要因があるのか。担当者に進出しない理由を尋ねた。

「商業施設内などでの出店機会のお話をいただいた際、商圏の市場環境や顧客ニーズを総合的に検討している。残念ながらこれまで島根県では出店に至っていない」(広報担当者)。

 島根県への出店の検討はあったらしい。具体的な理由については社外秘で聞けなかったが、さまざまな要因が絡み、出店しない状況が続いているそうだ。今後、島根県への進出の可能性を問うと「出店のお話をいただいた際には、検討させていただきたい」と前向きな答えが返ってきた。

 

2005年にオープンした、米子しんまち天満屋内の「米子ロフト」。有名な生活雑貨チェーンということもあり、オープン1年目で21万人が来店したという(資料)

 生活雑貨のロフト(東京都)の広報担当者によると、全国139店舗のうち、島根県や山形県、和歌山県など9県に店舗がない。未進出の理由について「自社物件でなくテナントとして展開するので、個々の商業施設のポテンシャルが大きく関連する。全国各地への物件検証は行っているが、島根県では今までの所ご縁がなかった」と話す。ロフトは大型ショッピングセンター内に店舗を構えるスタイル。ロフトのようにテナントとして進出する企業は店舗が入る大型商業施設が重要になるようだ。大きさだけで言えば山陰両県には大型の商業施設は複数あるが、集客力や家賃などの入店条件など細かな要因があるのだろう。

 鳥取県のみ未進出の築地銀だこを展開するホットランド(東京都)をはじめ、複数の企業に問い合わせをしたが「社外秘の情報」として明確な回答は得られなかった。

 

 ▼山陰に出店しにくい三つの要因

 企業情報を収集して、分析する信用調査会社、帝国データバンク(東京都)松江支店の豊田貴志支店長(48)に山陰への出店が全国最後尾になる理由を尋ねた。豊田支店長によると、大きく三つの要因が考えられるという。

 一つ目は人口。そこで暮らす人の数が売り上げに密接に関わるため、企業はまず人が集まる場所に優先的に出店を考えるという。

島根県では就職を希望する高校生の半数近くが県外へ出る。若者の流出と人口の減少に歯止めがかからない(資料)

 山陰両県の推計人口は、両県の統計によると島根県が66万3949人(2021年12月1日時点)、鳥取県は全国最少の54万7850人(同)で、両県とも人口の減少が続いている。豊田支店長は「企業が出店する際には、出店した後も将来的に稼げるかを考える。全国でどこに出店するか考えた時、残念ながら山陰は優先順位という点では低いのでは」とした。

 二つ目は地理的な問題。チェーン店を出店する場合、業態によっては近くに資材などを店舗に供給するための物流拠点が必要になる。都会地から、山陰両県に物資を運ぶには輸送コストが高くなる。隣接する都会地の広島県中心部から物資を運ぶ場合、島根県で人口が多い松江、出雲両市には陸路で3時間かかる。

中国横断自動車道尾道松江線(松江市-広島県尾道市)を通行する車両。交通網は昔より発達したが、時間を気にせず気軽に行き来できる状況とは言いがたい(資料)

 豊田支店長は「加えて松江市は現在、人が集まる市街地周辺に空いた土地や物件があまりない。そうすると、他の地域よりも出店のハードルは高いかもしれない」と分析した。

 最後は大手チェーン店からフランチャイズ(FC)展開の打診があっても、受ける企業が少ないという点。豊田支店長によると、大手のFCを受ける際、数千万円単位の投資が必要になるという。山陰両県は企業数が少ない上に、多額を投資できる企業は限られる。

 チェーン店の経営者にも聞いてみた。「炉端かば」といった居酒屋チェーンを、山陰のほか、東京や広島、兵庫といった都会地に展開するかばはうすホールディングス(安来市安来町)の松田幸紀社長(47)も、人口と地理の問題を挙げる。「全国チェーン店の出店基準はほぼ決まっており、特に駅周辺の情報を重視する。(東京の)新宿駅なら1日500万人が利用する。人口が少なく、電車の便数が限られる山陰は多くの場合、出店候補から漏れる」(松田社長)。地理についても「物流の観点で言えば陸の孤島。沖縄や九州は東京から飛行機が多く飛んでおり、都会地の企業からすると山陰よりは進出しやすい」と分析した。

炉端かばの浜田店。山陰のみならず、東京や広島といった都会地のほか、海外にもラーメン、居酒屋チェーンを展開している

 いずれも説得力がある理由だ。人口と物流の両面でハンデを抱える山陰の現状を、見せつけられる結果になった。そうだったのかと納得しながらも、やはり寂しい気持ちにもなる。

 

 ▼山陰は「起業しやすい」?

 山陰に進出する企業や進出を検討している企業にとって利点はないのだろうか。豊田支店長は「外部からの進出はハードルが高いかもしれないが、起業しやすい地域だと感じる」と話した。

 豊田支店長によると、県外から企業の参入が少ない分、山陰は他地域よりも競争が少ない。地元から新規事業の挑戦がしやすい傾向にあるという。実際に起業する人は多いといい「山陰は業歴の長い会社が多く、有限会社もたくさんある。競争が少ないため、株式会社にする必要がないのだろう。他の地域では起業しようと思っても、競合する会社が多すぎてなかなかできない」と山陰経済の特徴を分析した。なるほど、競争が激しいと、株式会社などにして設備や規模を大きくし、競争に打ち勝たなくてはならない。その分、企業にとってはリスクも大きくなる。

 

 他県が手を出しにくいということは、裏を返せば地元の企業が長らく地域を支えてきたということ。「全国展開」という冠に気を取られ、地元企業の良さを理解していなかったのかもしれない。自分の周囲を見てみれば、いろいろな業種で地元の企業で頑張っていて、楽しませてくれるお店やサービスは多い。今回、全国チェーン店について調べたことで、山陰の持つ良さにあらためて気付かされた。