政府は新型コロナウイルスの「まん延防止等重点措置」適用を計34都道府県に拡大した。それに合わせ、オミクロン株急拡大による医療体制まひを防ぐため、若く重症化リスクが低い感染者は医療機関を受診せずに自宅療養に入ることを認めた。

 オミクロン株は従来株に比べ感染力が格段に増した一方、重症化しにくいとの見方が強まっている。そのため国内で1日当たりの新規感染者数4万~6万人台が連日続く中、入院病床が逼迫(ひっぱく)する前に、軽症者急増で外来、救急が機能不全に陥り始めている。「受診せずに療養可」は、オミクロン株の特徴に合わせた政府の方針転換と言える。

 重症化しやすい高齢者、持病を持つ人の命を救う医療の確保には、軽症者が殺到しないよう制限するのもやむを得まい。

 ただ医療を受けることは憲法が保障する生存権などに基づく国民の権利だ。自宅療養者についても、急な症状悪化を迅速に把握し受診、入院に移す態勢を政府、自治体は整える必要がある。それが権利制限の必要条件と肝に銘じてほしい。もちろん希望者にはきちんと受診を認めるべきだ。

 患者急増で外来医療逼迫が想定される地域を対象に、40歳未満で基礎疾患がなくワクチン2回接種済みの人が受診せず自宅療養するのを認める。ウイルス検査は療養者自身で行い、その結果の報告は、医師がいる自治体の健康フォローアップセンターなどが受ける。

 この手順は品薄になった抗原検査キットの確保が前提になる。岸田文雄首相は「国が買い取り保証して1日80万回分まで供給量を引き上げるよう製造各社に要請した」と言うが、爆発的な感染拡大に間に合うのか。普及に全力を挙げてほしい。

 このほか今後は、医療機関が混雑している場合、重症化リスクが低い人は発熱があっても自分で検査してから受診するよう求めることも認める。感染者の濃厚接触者となった同居家族に症状が出た場合は、医師の判断で検査せずに感染の診断を可能とする。いずれも通常時にないような特例措置だ。不安、混乱が増すことのないよう関係者には丁寧な対応を求めたい。

 首相は、オミクロン株が初確認された昨年11月からの「先進7カ国(G7)で最も厳しい水際対策」により「国内感染の増加に備える時間を確保できた」と自負する。しかも「最悪の事態を想定」「先手、先手の対応」と繰り返してきた。

 確保した約2カ月間に政府はどこまでの事態を想定し、先手を心がけつつ、どういう備えをしたのか。オミクロン株の感染拡大が先行した南アフリカ、英国をはじめとする欧米諸国を見れば、日本が直面している現状は十分予想できたはずだ。

 にもかかわらず、入院病床に余裕を残しながら医療体制がまひするという、欧米で先に現実化していたオミクロン株特有の事態に苦肉の策で臨むほかなかった。政府は想定、準備が甘かったことを深刻に反省すべきだ。

 ところが、「国民に納得感を持ってもらえる丁寧な説明」を約束した首相は今回、記者会見さえ開かなかった。この姿勢は厳しく問われよう。

 専門家はオミクロン株について「早ければ2週間前後でピークが到来する」と指摘する。危機の最大化まで時間はない。飲み薬普及も加速させ、総力を挙げて乗り切りたい。