中国の全国人民代表大会(全人代=国会)会議は「愛国者による香港統治」を目指す香港選挙制度見直しの決定案を採択し閉幕した。決定により香港基本法(憲法に相当)の付属文書や選挙法が改正され、民主派の立候補は不可能になる。

 昨年の香港国家安全維持法(国安法)施行に続く統制強化だ。多数の香港住民は民主化を求めているが、香港の「高度の自治」を保障する「一国二制度」は完全に崩壊することになった。銃弾ではなく法律を武器として民主化要求の声を封じ込める「第二の天安門事件」と言えよう。

 国際社会は統制強化を強く非難している。香港の人々と「自由と民主主義」の価値観を共有する日米欧などは連携して民主派を支援し、中国との対話の場を設け、弾圧の停止と民主化を粘り強く要求し続けるべきだ。

 決定は選挙制度見直しについて「国と香港を愛する者による統治」を主眼とし「国の主権、安全、発展の利益を守り、香港の長期的繁栄・安定を保つ」「実情に合った民主制度を発展させる」と明記した。

 香港政府トップの行政長官を選ぶ選挙委員会の定員1200人を1500人、立法会(議会)の定数を70から90に増やす。これは親中派を増やして翼賛体制を固める戦略とみられる。また、選挙委や行政長官、立法会の候補者の資格を審査する委員会を新設し「香港への忠誠」などを要件に民主派をふるい落とす。

 中国は1997年に英植民地だった香港の返還を受けた際、一国二制度を国際公約し、基本法には同制度の維持や普通選挙制導入など民主化の道筋を盛り込んだ。今回の制度見直しで、普通選挙は実現不能になった。

 2019年、香港では民主化を求める大規模デモが頻発。民主派は11月の区議会選挙で圧勝し、昨年9月に予定された立法会選挙で過半数獲得を目指した。中国は民主化運動を香港独立や中国の社会主義政権の転覆を狙う敵対勢力の陰謀とみる。危機感を強めた当局は選挙を延期、6月に制定した国安法違反で民主派を次々に訴追した。

 李克強首相は全人代閉幕後の記者会見で「愛国者による香港統治は一国二制度の着実な継続を確かにするためだ」と釈明した。だが、民主化を求める香港住民や国際社会は決して納得すまい。

 日本の外務省は中国・香港政府に懸念を伝達し、加藤勝信官房長官は記者会見で「国際社会と連携し、中国側の具体的な対応を求める」と述べた。欧州連合(EU)も「遺憾」との声明を発表、米国は近く行われる米中外交トップ会談で懸念を伝える方針だ。

 日米、オーストラリア、インド4カ国は「自由で開かれたインド太平洋」構想推進で中国をけん制してきた。自由主義陣営はさらに結束を固め、中国に対して、香港の自由と民主主義を守るよう働き掛けたい。

 李首相は全人代で新型コロナウイルス制圧の成果を誇示し「世界一の経済大国」への道を視野に入れた中長期目標を打ち出した。しかし、香港問題に加えて、強引な海洋進出や軍備増強、非民主的な政治体制、コロナへの初期対応の不手際などにより、国際社会の反中、嫌中ムードは高まる一方だ。中国は世界で信用を失って孤立すれば、発展の重い足かせになることを知るべきだ。