経団連の十倉雅和会長と連合の芳野友子会長が26日に会談し、2022年春闘が本格的にスタートした。「成長と分配の好循環」を掲げる岸田文雄首相が賃上げを求め、経団連も前向きに応じる構えを示している。新型コロナウイルス禍に見舞われ苦境にある暮らしを支え、経済を回復軌道に乗せるため、手応えのある賃上げの実現を求めたい。

 十倉経団連会長、芳野連合会長は、トップとして初めて春闘に臨む。14年から20年まで主要企業の賃上げ率は2%を上回ったが、21年は1%台にとどまった。これをどこまで回復させられるかが焦点になる。

 経団連は業種横並びや一律の引き上げには消極的だが、「新しい資本主義の起動にふさわしい賃上げ」を呼び掛け、例年になく積極的な姿勢だ。大和証券グループ本社のように3%を超す賃上げをいち早く表明した会社もある。

 株価や投資家に気を使うあまり、配当や自社株買いに使っていた利益を賃金に振り向けるのは当然だ。コロナ禍で疲弊した経済社会の回復に必要なのは、働く人たちの生活を支援し、不安を少しでも解消することだ。経営者は賃上げを「人への投資」ととらえ、社会的な役割を果たすべきではないか。

 連合はこのところ、賃金政策で政府に主導権をとられ影が薄くなっている。政治路線を巡り組合間で食い違いはあるが、春闘では結束し経営側との交渉で成果を引き出してほしい。

 経済協力開発機構(OECD)によると、物価水準を考慮した日本の賃金は、1990年から4%しか増えていない。この間、米国の賃金は約1・5倍に増加した。日本は韓国にも抜かれ、いまは35カ国中22位に低迷している。社会安定の基盤とされる中間層も大きく傷ついた。

 製品やサービスの値下げ競争が続き、賃金が低迷する。消費はますます冷え込む。こうしたデフレ型の悪循環を転換するには、製品価格に生産コストを反映させることが大事だ。それが賃上げ余力を生む。

 中小企業の賃金引き上げも欠かせない。下請けとして原価を低く抑えるように工夫しても、大企業に利益を吸い上げられてばかりでは、業績は振るわないままだ。中小企業が価格交渉で圧迫されないように、経済産業省や公正取引委員会は目を光らせてほしい。

 パートや派遣などの非正規労働者、女性、高齢者の賃金の改善は、労使双方にとって長く宿題になっている。正社員以外の人たちが日常業務を支えていることは、経営者も組合も知っている。春闘の労使交渉で得た成果が、組合に加入していない人たちにも適用されることを、労組も前向きに考えるべきだろう。

 賃金水準を底上げするには一時金だけでなく、毎月の基本給を上げるベースアップ(ベア)が望ましい。そうなれば、預貯金を取り崩し、旅行や外食に使う余裕も生まれる。苦境にある飲食店や地方の観光業者を支えることにもつながる。

 オミクロン株が猛威を振るっているが、ワクチン接種や飲み薬の開発によってコロナ対策は前進してきた。資源価格の上昇でインフレ懸念も生まれている。賃上げはコロナ禍から立ち直るための第一歩だ。政府、経営者、労働組合にそれぞれの決断と行動を期待したい。