ミャンマー国軍がクーデターを起こしてから1年になる。国軍は流血の弾圧を続け、混迷からの出口は見えない。国軍が東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との間で合意した仲介を受け入れ、対話が開始されるよう国際社会は圧力を強めなければならない。
仲介受け入れの約束を守らない国軍は、ASEANの首脳外交から排除されている。ところが、今年のASEAN議長国カンボジアのフン・セン首相が1月初めにミャンマーを訪問、国軍トップのミンアウンフライン総司令官と会談して波紋を広げた。
「議長国は民主派を含む全ての陣営に関与すべきだ」という批判の声が加盟国から上がったのは当然だ。建設的で公正な仲介が実現するよう各国は協議を尽くしてほしい。ASEANと深い結び付きを持つ日本も、後押しする必要がある。
国軍は昨年2月1日、民主政権のトップだったアウンサンスーチー氏ら多数を拘束し、総選挙で圧倒的な支持を得ていた国民民主連盟(NLD)の政権を倒し全権を掌握。抗議デモを残虐な弾圧で封じ込め、ミャンマーの人権団体によると、市民約1500人が殺害されたという。
民主派は昨年9月から自衛のためとしてゲリラ攻撃を本格化させており、人権団体が把握した以外にも多数の犠牲者が双方に出ているとみられる。
タイ国境地帯では、民主派と一部の少数民族武装勢力が共闘し、国軍との衝突が激化。タイに避難する住民も相次いでおり、かつてのカンボジア内戦のように長期にわたって地域を不安定化させる恐れがある。
軟禁状態にあるスーチー氏は居場所が不明だが、国家機密漏えいや汚職など多数の罪に問われ、公判が頻繁に開かれている。既に計6年の禁錮刑が言い渡されたが、全て有罪になると禁錮が計150年を超える可能性があるという。
昨年4月、事態収拾の道を探ったASEAN臨時首脳会議には、ミンアウンフライン氏が自ら出席。暴力の即時停止、特使派遣、平和解決に向けた対話、人道支援など5項目の合意に応じた。しかし国軍は合意を履行せず、昨年10月、ASEANは首脳外交への国軍の参加を拒否した。「内政不干渉」「全会一致」が伝統的な原則のASEANが身内の加盟国に、こうした措置を取るのは極めて異例だ。
ASEANでは加盟10カ国が1年ずつ交代で議長国を務める。昨年のブルネイから議長国を引き継いだカンボジアは近年、民主主義の後退で批判されている国だ。
1980年代から権力の座にあるフン・セン氏が強権支配を強め、最大野党が解散に追い込まれた。2018年の下院選では与党が全議席を独占した。昨年12月、与党はフン・セン氏の長男のフン・マネット陸軍司令官を将来の首相候補に指名、独裁色が一層強まった。
フン・セン氏の外交が、ASEAN加盟国や国際社会の声を束ねて5項目合意の履行につながるのであれば前進だが、強権支配にお墨付きを与え合うのが内実ならば地域の結束を損なうだけだ。
約30年前のカンボジアの国連平和維持活動(PKO)をはじめ、東南アジアで和平や民主化の支援に尽力してきた日本は、これまでの成果を尊重し発展させるよう各国に強く働き掛けるべきだ。