新生銀行が臨時株主総会を開き新経営陣を決めた。株式の47%超を取得したSBIホールディングスの傘下で再出発する。最大の課題は約3500億円に上る公的資金の早期返済だ。地方銀行に次々出資してきたSBIは「第4のメガバンク構想」の中核に新生銀を据える。新生銀は公的資金の返済に不退転の覚悟で臨んでもらいたい。
1998年に破綻した旧日本長期信用銀行を前身とする新生銀は、旧長銀に投入された公的資金も引き継いだ。外資系ファンドに譲渡され、企業の合併・買収(M&A)の仲介や、高度な金融商品の開発を手掛ける「投資銀行」に生まれ変わることを期待された。しかし今は、個人向けのカードローンや企業への事業融資を収益の軸にしている。公的資金で20年余り支えられてきた銀行の姿としては物足りない。
国は公的資金の見返りとして新生銀の普通株を約20%保有している。これを市場で売却して完済するには新生銀の株価を現在の3倍に当たる7450円にする必要がある。現実的な方法とはとても思えない。国の保有株だけ高値で買い取ることは、株主平等の原則に反する。
SBIは袋小路に入った返済方法を、金融庁などと早急に協議するとしている。いったん非上場にして、国との交渉で株式の買い取り価格を決めることも選択肢になるだろう。市場の株価ではなく、資産内容などを基準に株の譲渡価格を決められる可能性があるからだ。
SBIの北尾吉孝社長は「金を借りて返さないのは泥棒と一緒だ」と語ったことがある。新生銀の新経営陣は返済の具体的な方法とスケジュールを早く示してほしい。
SBIが新生銀の前経営陣との対立も辞さず、株式公開買い付け(TOB)によって傘下に収めたのは、新生銀を中心に地銀のネットワークをつくり出すためだ。
SBIは既に地銀8行に出資している。地元企業と長く深い取引をしている各地の地銀と新生銀が結び付けば、取引先の事業承継や再編に広域的に協力できる。新生銀と地銀との協調融資も実現しやすくなるだろう。
資本関係がなくてもSBIから金融商品の供給を受けている金融機関もある。新生銀は法令順守やリスク管理を徹底しながら、弱体化する地銀の営業基盤を守り、収益力向上につながる経営戦略を練ってもらいたい。
公的資金の返済がここまで遅れたのは、新生銀を監督してきた金融庁にも問題はある。株価低迷を座視するのではなく、大株主としても経営陣に収益力の強化を働きかけ、早期返済を求めるべきだった。公的資金を確実に回収する上で普通株を保有した効果はあったのだろうか。監督官庁として誤算があったなら自ら検証する必要がある。
SBIグループには金融庁の元幹部が何人も入っている。地方財務局長や金融検査の経験者がおり、新生銀の経営陣にも元金融庁長官の五味広文氏が会長として加わった。金融庁とSBI・新生銀は透明で緊張感のある関係を保ち、行政の公正さに疑念を持たれないよう心がけてほしい。
金融危機だったとはいえ、銀行への資本注入は一般企業から見れば不公平に見える。地域金融の地盤沈下に歯止めをかける役割を果たすことこそ、新生銀が長年の公的支援に応える道だろう。