漫画を出版社に無断でインターネット上に掲載する海賊版サイトが再び勢いを増している。運営者は「ただ読み」させてアクセス数を伸ばし、広告料を稼ぐ。出版社などでつくる一般社団法人ABJによると、2021年に漫画誌や単行本の売り上げが減るなど、ただ読みによる被害額は推計で1兆円を上回り、前年の5倍近くに達した。
漫画は日本文化を海外に売り込むクールジャパン戦略の代名詞にもなっており、政府は対策を強化。20年成立の改正著作権法は海賊版と知りながらダウンロードする行為を違法とし、海賊版サイトのURLをまとめて掲載してアクセスしやすくする「リーチサイト」にも規制の網を掛けた。
出版社側は地道に削除要請を重ねる一方、今月初めに大手4社が、日本国内のサーバーを海賊版サイトに提供している米国のIT企業に損害賠償などを求め、東京地裁に提訴。警察も摘発に力を入れる。ただサーバーの多くは海外にあり、運営者の特定や責任追及が難しく、労せずして広告料を稼ごうとするサイトの出現は後を絶たない。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり需要の高まりも背景にあるとみられる。粘り強く対策を積み上げていくのはもとより、ネットを利用する一人一人が安易な閲覧は違法行為を助長し、出版文化を脅かすという深刻な事実にしっかり向き合う必要がある。
「漫画村」という海賊版サイトが15年ごろ開設された。「ONE PIECE」や「キングダム」「進撃の巨人」など人気作品を無断掲載。17年後半からアクセス数が急増し、18年に月間1億6千万回を超えた。ただ読みによる被害額は3200億円と推計された。
当時、国内最大規模といわれ、サイトに入った広告料は6200万円余りに上った。18年4月に閉鎖し、逮捕された元運営者の男は21年6月に著作権法違反などの罪で懲役3年の実刑判決を言い渡され、確定した。
この事件をきっかけに政府は本格的な海賊版対策に乗り出し、著作権法を改正した。その過程では、海賊版サイトへのアクセスを見つけたら強制的に遮断する「ブロッキング」や利用者の端末に警告を表示する方式も検討した。しかし全ての通信を監視しなければならず、有識者からは「通信の秘密やプライバシーを侵害する」と批判が相次ぎ、導入を見送った。
このため次善の策として、出版社団体の海賊版リストを基にフィルタリングを行う仕組みを整えた。出版社側も、大手4社が米国でサイト運営者の情報開示手続きを進めたり、サイトに広告料を支払った広告代理店に損害賠償を求めたりするなど手を尽くしている。
だが運営者は身辺に追及が迫ると、サイトを閉鎖。看板を掛け替えるなどして、容易にしっぽをつかませない。さらに新たなサイトが乱立。漫画村事件後、海賊版サイトへのアクセスはいったん落ち着いたようにも見えたが、コロナ禍の拡大とともに急激に伸びた。
今のところ、海賊版根絶に決定的な対策はない。このままネット上に違法状態がはびこれば、再びブロッキングなど、より強力な規制を求める声が高まることになりかねない。ただ、そうした規制はネット上の自由を大きく損なう。ネット利用者は自らの問題として考えてみる必要がある。