1月中旬にハシモトが催したユーチューブ生配信の一場面
1月中旬にハシモトが催したユーチューブ生配信の一場面

 ランドセル商戦が早まっている。この春入学する1年生用ではない。1年後の2023年度入学生に向けた新作が相次いで発表されており、各地の工房はオンラインセミナーや動画配信など多彩な手法で「ラン活」への助走を後押ししている。山陰両県で新作が店頭に並ぶのは4月以降だが、23年度入学生の親たちは早くも臨戦態勢を取る。(情報部・増田枝里子)

 「まだ先のことと思っていたからびっくりした」。保育園年中児の長女(5)がいる松江市在住の青山愛美さん(31)は、ママ友にランドセルの購入時期を聞いて驚いた。入学の3~4カ月前までに準備すればいいと思っていたが、年長クラス(5歳児クラス)の夏までに注文を済ませるのが主流だという。

 「人気の色やデザインから次々に完売していく」という情報を耳にし、早速3社のカタログを発注。長女と一緒に好みの色やデザインを絞り込み、店舗で試着して決めることにした。

色とりどりの新作が並ぶカタログ。これぞという一つに絞るのは至難の業だ
「製造本数に達したモデルから完売」などと案内するカタログ。好みのデザインをいち早く予約しておきたい客の心をくすぐる

 一般社団法人日本鞄(かばん)協会ランドセル工業会の調査によると、21年度入学生の保護者が購入を検討し始めた時期は、入学1年前の20年4月が14・8%で最も多かったのに次いで、それよりさらに前の19年12月が12・8%で2番目に多かった。入学の1年以上前に当たる年中児クラスの冬には情報収集を始める姿が浮かぶ。

 1月中旬、「フィットちゃんランドセル」で知られるハシモト(本社・富山市)はすでに、ユーチューブの生配信で「新作発表会&ラン活オンラインセミナー」を開催。延べ500回以上再生され、2月中旬に2回目を予定する。広報担当の橋本和加代さんは「年中児から検討を始める人が増えており、同時に販売側も売り込みを前倒しにしている」と話す。

1月中旬にハシモトが催したユーチューブ生配信の一場面

 セイバン(本社・兵庫県たつの市)は2月中旬で22年度入学生向けランドセルの販売を終了し、23年度向け商品の販売を始めた。新型コロナウイルス禍を受け、自宅でランドセルを試着したイメージがわかるスマホアプリ「TRY SEIBAN」を展開する。

 わが子を横、後ろ、斜めの三つの角度で撮影すると、同社の新作モデル140種類以上を試着したイメージを自動生成する仕組み。昨年始めた試みで、反応は上々という。担当する久保明広さん(36)は「自宅での『ラン活』を充実させる一助になればいい」と期待する。

「TRY SEIBAN2023」の画面。撮影した写真にランドセルを合成し、試着した様子を比べられる
「TRY SEIBAN2023」の画面。背負ってみた後ろ姿の雰囲気を確かめられる

 23年度モデルは、1月中旬から2月にかけて新作の販売を始めたメーカーが多い。動画配信のほか、インスタグラムでのライブ配信、LINEでの相談受付など多様な手法で顧客を引きつける。

 カタログとともに見本の革を付け、実際の色味や触り心地を体感できたり、子どもに「理想のランドセル」を描いてもらい親子で話し合えるリーフレットを付けたりと、メーカー側の工夫で「自分だけのランドセル選び」を後押しする。

メーカーが提供する牛革や人工皮革などのサンプル。実際の色味やつや、手触りなどが確かめられる

 地元のイオン松江ショッピングセンターでは4月頭ごろから新モデルの予約販売会をスタートさせ、200種類以上を並べる予定。松江店などを管轄するイオンリテール中四国カンパニー(広島市)広報担当の山下沙織さんは「年々こだわりが強い人が増えている印象」と話す。

 20年までは4万~5万円前後が人気だったのに対し、21年は6万5千円以上の人気が最も高くなり、平均は20年よりも2千円弱上昇。少子化に加え、コロナ禍で旅行やレジャー費用が抑えられたり、子育て世帯への臨時特別給付金(18歳以下1人当たり10万円)の交付があったりと、ランドセル購入予算も上がりそうだ。

10万円。子育て世帯への臨時特別交付金で購入予算も上がる?

 冒頭の青山さんも「予算を決めずに好きなものを選んでもらおうと思うようになった」と話すように、来年の春は親子の「こだわり」が存分に詰まったランドセルが町中で、見られるかもしれない。