釣りの世界では、狙った以外の魚を「外道(げどう)」と呼ぶ。厳冬期の山陰沿岸で最強の外道と言えばコブダイだ。多くの釣り人が魚影を見るなりガッカリしてリリースするが、地元の漁師からは「食べるとすごくおいしい」と聞く。2月上旬、型のいいコブダイを釣り上げた。「美味」といううわさを確かめようと、調理した。

コブダイは、タイの名前が付くが実はベラの仲間で、岩礁の周辺に生息。30センチぐらいから、時には1メートル近くの大型も上がる。漁獲量が少ないことから鮮魚店ではあまり見かけない。山陰では「カンダイ」「コブ太郎」とも呼ばれ、UMA(ユーマ、未確認生物)のような外見が影響して、ほとんどの釣り人が海に放す。額のコブが成長とともに大きくなり、変わった容姿が目を引くことから水族館で飼われるケースも多い。

松江市島根町の地磯に入り、フカセ釣りでグレ(メジナ)やチヌ(クロダイ)を狙った。開始から3時間ほどでまき餌が効き始め、チヌ(47センチ)やグレ(33センチ)が釣れた。
この時期、水温が低いため深場を探ると他の魚とは違う豪快な当たりがあった。太めのハリス(2・5号)が何度も引きちぎられ、パワーのあるコブダイがひそむ雰囲気が一気に高まる。ハリスを3・5号に太くしても引きちぎられてしまった。
道糸との結び目を強化し、まき餌を打ち続けると一気にウキが水中に消えた。リールが逆回転してどんどん道糸が出ていく。今度は負けじと巻き上げを続け、10分ほど格闘すると相手が弱り、無事にたも網の中へ。重量があり、必死に引き上げた。釣具店に持ち込んで計量してもらったところ3・34キロ、57センチだった。

台所でさばくのは難しいため自宅の敷地内にある排水溝の上へ横たわらせた。小指の爪ほどもあるうろこを剥がすのに一苦労。胃袋の中には、かみ砕かれた貝殻がたくさん入っていた。
3枚におろすときれいな白身となり鍋物、煮物、アラ汁に使った。いずれも独特のうまみと脂が出てうわさ通りの味。特に鍋物の具材としてはスープに旨味が染み渡り、歯ごたえも十分で抜群の相性だった。


頭部やアゴが固く、細かくできないためそのまま鍋で煮た。できたアラ汁は身が大きすぎて到底、汁わんに入らない。麺を入れるわんに盛り付けた。
カマにもたくさん身が付いていて、これだけで満腹になってしまう。コブの部分は脂身のようでゼリー状となっており、濃厚な珍味として楽しめた。

切り身を持ち帰った知人は刺身とカルパッチョに調理。「あっさりした中にも甘味があり、魚の臭みもない」と喜んだ。
「人は見かけによらない」というが、魚もしかり。これからは積極的にコブダイを持ち帰りたい。