新型コロナウイルスの第4波が都市部を中心に広がり、大阪市など3府県6市で「まん延防止等重点措置」が適用がされる中、3月25日に福島県でスタートした東京五輪の聖火リレーが全国につながっている。
感染拡大地域との経済支援の格差是正と首都圏の感染対策の徹底を訴え、5月15~16日に予定される島根県内での聖火リレー中止を検討していた丸山達也知事は、スポンサー車両の音量制限などを求めた上で、開催を容認する考えを示した。ランナーたちはホッとしていることだろう。
今回の知事の行動には「地方の実情をアピールした」と評価する声がある半面、「政治的な駆け引きだ」との批判も残った。
オリンピック憲章はスポーツ団体に政治的中立を求めており、本来、競技や聖火リレーは政争の具にすべきではない。政治とは切り離して、コロナ禍での開催の可否や競技方法を考えるべきだ。聖火リレーや五輪が政治利用された結果、取り返しのつかない悲劇を招いた過去があり、国際的に「政治との分離」が叫ばれている。
1936年ベルリン大会で始まった聖火リレーは、最初から政治利用された。発祥の地、ギリシャ・オリンピアで採火した聖火は7カ国を通過。ナチスはバルカン半島に侵攻する際、リレーで得た地形の情報を活用したとされ、大会を映像化して体制のプロパガンダに利用した。
80年5月、日本オリンピック委員会(JOC)はモスクワ五輪のボイコットを決めた。前年、ソ連がアフガニスタンに侵攻した問題を機に、カーター米大統領がボイコットを表明、同盟国に同調を求めた。難しい判断を求められたJOCは政府から財政支援の打ち切りを示唆され、選手派遣の見送りを決定。翌日の本紙は1面で「政府〝圧力〟に屈する」と報じた。
アスリートにとって東西の対立は無縁だ。レスリングで活躍が有力視された高田裕司選手が「オリンピックに出るため毎日練習してきたのに」と号泣した姿を記憶する人も多いだろう。続く84年ロサンゼルス五輪で、今度は米国のグレナダ侵攻を理由にソ連と東欧の16カ国がボイコットした。
国内に目を向けると、前回2016年リオデジャネイロ大会の閉会式で、人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」のマリオの姿で前首相が登場。女性蔑視発言でポストを追われた組織委員会の前会長は首相経験者、後継会長は現職の参院議員が務めており、政治色を否めない。
今秋に任期満了を迎える衆院選を巡り、与党内ではワクチン接種が進み、東京五輪・パラリンピック終了後の「9月解散、10月投開票」と見る向きが多い。「コロナに打ち勝った証し」と位置付ける五輪を成功させれば「有権者の理解を得やすい」(政権幹部)との読みがあるためだ。
だが、衆院選を意識するあまり、十分な対応ができないまま開催を押し切って感染を広げる事態になれば、せっかくの聖火リレーも後味の悪いものになってしまう。
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