ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部で親ロシア派が支配する2地域を独立国家として承認、住民の保護を名目にロシア軍の派遣準備を命じた。これらの地域は従来も事実上ロシアの支配下にあり、ウクライナの主権は及んでいないが、独立は国際的に承認されていない。主権国家に対する明確な侵略である。
ロシアのプーチン政権は、ジョージアの南オセチアなども、同じ手法で事実上の属領に組み入れた。ウクライナ南部クリミア半島は強制的に併合した。他国の主権と領土を繰り返し侵してきた。国際秩序をないがしろにする暴挙を、これ以上許してはならない。
米国のバイデン大統領は、親ロ派地域の独立を承認したことを「侵攻の始まり」と受け止め、ロシアへの経済制裁の第1弾を発動した。日本や欧州諸国も制裁発動で歩調をそろえた。
侵略には重大な代償が伴うことを、国際社会が一致して示す必要がある。ロシアが侵略の範囲を拡大すれば、ちゅうちょせずに制裁を強化するべきだ。
ロシアが実際に親ロ派支配地域に派兵すれば、さらに侵略が拡大する可能性が強まる。ウクライナの紛争では既に約1万4千人が犠牲となった。あらゆる手段を尽くして、流血の事態を防がねばならない。
プーチン氏は独立承認に先立ちウクライナ情勢について演説し、同国は「単なる隣国ではない。歴史的、文化的、精神的に不可分のわが固有の領域の一部」と言い切った。事実上の併合宣言にほかならない。国家元首にあるまじき発言である。
今回の独立承認で、親ロ派支配地域は事実上ロシアの属領となり、ロシア軍が恒常的に駐留できる。明らかに「力による現状変更」だ。
プーチン氏がウクライナについて、いくら「不可分の一体性」を主張しても、ウクライナでは一部を除き、反ロシア感情が高まっている。ロシア軍が攻勢を強めれば、正規軍のみならず、一般市民も武器を取って抵抗するだろう。
市街戦となれば、血で血を洗う凄惨(せいさん)な事態となる。「同胞」の血を流してまで領土を拡大すればロシア国内でも良心的な批判が強まるだろう。
プーチン氏は演説でウクライナについて「確かな国家としての実質が一度もなかった」と述べた。事実誤認の暴言である。ウクライナには独自の文化があり、主権国家として国連に加盟し、国際社会が承認している。不安定な国内状況を理由に隣国を見下し、侵略を正当化するのは帝国主義や植民地時代の言動だ。
ウクライナ東部紛争では、親ロ派地域に特別の権限を与える「ミンスク合意」に基づき解決を図る努力が独仏の仲介で進んでいた。ロシアも支持していたが、独立承認で政治決着の道は閉ざされた。その意味でもプーチン氏の選択は罪が重い。
プーチン氏は、国民の支持を得るため「大国ロシア」の看板を掲げる。核戦力を有するロシアは、確かに軍事大国である。しかし、クリミア編入で既に国際社会の制裁下にありながら、再び侵略に及んだことで、国家の品位と尊厳は深く損なわれた。
軍事力の不当な行使と変幻自在な欺(ぎ)瞞(まん)が国際社会を困惑させている。国際規範を無視した予測不可能な行動は「大国」の名にふさわしくない。