旧優生保護法により不妊手術を強いられたとして、大阪府の夫婦と近畿在住の女性が国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決があり、大阪高裁は初めて国の賠償責任を認めた。こうした訴えは2018年1月から全国の9地裁・支部に相次いだ。これまでに出た6件の判決は旧法を違憲と断じた4件も含め、いずれも国への請求を退けた。
壁となったのは、不法行為から20年で賠償請求権が自動的に消滅する「除斥期間」。一連の判決は手術時から起算し提訴時、既に20年が過ぎていたとした。しかし大阪高裁は「適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」と指摘。適用を制限すべきだとし、国に計2750万円の賠償を命じた。
「不良な子孫の出生防止」を掲げた旧法の下で社会に障害者らへの差別や偏見が広がって声を上げることが難しく、長らく提訴できなかった原告らに寄り添い、救済の道を切り開いたといえよう。各地の訴訟に影響を与えるとみられ、19年施行の強制不妊救済法に基づき国が進める被害者救済の在り方も問われる。
救済法で被害者1人につき320万円の一時金が支給されるが、子どもを産み育てる権利を奪われた苦しみに見合わないとの声は根強く、支給認定は伸び悩み、被害実態の把握も進まない。国は今回の判決を重く受け止め、抜本的な解決に本腰を入れる必要がある。
国の統計によると、1948年に制定され、96年まであった旧法によって遺伝性疾患や知的障害、ハンセン病などを理由に約2万5千人が不妊手術を施された。大阪高裁で勝訴した大阪の夫婦はともに聴覚障害があり、夫は80代で妻は70代。もう1人は知的障害のある70代女性で、妻は74年に、女性は65年ごろに、それぞれ手術を受けた。
3人は2018年9月~19年1月に提訴。20年11月の大阪地裁判決は旧法を違憲としたが、手術時を起算点とする除斥期間の経過を理由に請求を棄却した。一方、除斥期間について、大阪高裁は本来、厳格に適用されるべきだとしながらも「例外を一切許容しないものではない」と述べた。
旧法による違法な権利侵害は96年の改正まで続いたと指摘。除斥期間の起算点を改正時とした。それでも提訴時に20年が過ぎていたことになるが、さらに原告らの提訴を著しく困難にしていた事情に考察を加えた。
その中で「憲法の趣旨を踏まえ施策を推進していくべき地位にあったのに、旧法によって障害者への差別・偏見を正当化し、助長した」と国の姿勢を厳しく非難。このため原告らは提訴の前提となる情報や相談機会を得られなかったとした。
その上で一定の条件を満たせば6カ月間、時効が停止するという民法の規定を踏まえ、原告らは同じ内容の訴訟が提起されるなど、困難な状況が解消されて6カ月以内に提訴しており、請求権は有効と結論付けた。
何とか被害者に救済の手を差し伸べようとの思いがにじむ。国による救済はそれに遠く及ばない。救済法には「反省とおわび」が盛り込まれているが、その主体は「われわれ」で、国の責任は曖昧なままだ。一時金の額も、高裁判決で認定された女性への賠償1430万円と比べるべくもない。支給認定も1月時点で966件にとどまり、救済の不十分さが目立つ。












