ロシアによるウクライナ侵攻に対し、日本政府はロシアの金融機関を対象とする資産凍結など3項目の追加的な制裁措置を発表した。米国や欧州連合(EU)なども、銀行取引の制限や先端技術関連の輸出規制を決定している。
プーチン・ロシア大統領がこれ以上、侵攻地域を拡大することなく、速やかに戦闘をやめるよう国際社会はさらに圧力を強めなければならない。
ロシアとの間に北方領土返還・平和条約締結交渉を抱える日本だが、交渉は当面不可能になったのが現実だろう。ロシアに対し、米欧諸国と結束して、厳しい措置を取り続けるべきだ。邦人の保護にも万全の対応を尽くすよう求めたい。
岸田文雄首相は制裁発表の記者会見で「ウクライナ侵攻は明白な国際法違反であり、断じて容認できない」と非難。「わが国の安全保障の観点からも決して看過できない」と強調した。力による一方的な現状変更の暴挙を許せば、アジアの安全保障情勢にも重大な影響を及ぼしかねない。地域の安保環境を悪化させないためにも、毅然(きぜん)とした姿勢を示す必要がある。
同時に、国内の経済情勢への目配りも不可欠だ。侵攻と制裁は世界のエネルギー情勢に影響を与えかねない。首相は会見で、原油価格高騰への追加対策として、激変緩和事業を大幅に拡充・強化し、小売価格の急騰を抑制すると表明した。国民生活への影響を最小限に抑えるため、あらゆる施策を総動員し、迅速、的確に実行すべきだ。
政府だけでなく、国会でも早期にウクライナ侵攻に対する非難決議を採択するなどメッセージを発するよう求めたい。
政府が決定した追加制裁は、ロシアの三つの銀行の資産凍結と、ロシアの個人・団体への査証(ビザ)発給停止と資産凍結、軍事関連団体への輸出や半導体などの汎用(はんよう)品の輸出規制―の3項目。
24日にテレビ会議で開催した先進7カ国(G7)首脳会議で合意した、協調して「厳しい経済・金融制裁を実施する」との声明に沿った内容だ。
経済制裁でプーチン大統領が侵攻をやめるかどうかは見通せない。しかし、武力による対抗は破滅的な事態に陥る以上、国際社会が結束してロシアに対して制裁を科し、侵攻が自国の利益にならないことを思い知らせる以外に道はない。徹底して結束を貫くべきだ。
日ロ間には北方領土交渉があるため、ロシアに対する制裁が緩いと指摘されてきた。ロシアが2014年にウクライナ南部のクリミアを強制編入した際は米国などに遅れて制裁を決定。クリミア産品の輸入制限など実効性の乏しい内容だった。
当時の安倍晋三首相はクリミア編入の直前にロシア南部ソチで開かれた冬季五輪の開会式に出席して大統領と会談。編入後も首脳会談を続けた。
北方領土では、日ロ間の信頼醸成を狙った「共同経済活動」などの事業が計画されている。極東サハリンでは日本の商社などが関わる液化天然ガス(LNG)の生産など、日ロ間の経済協力事業が行われている。
首相は会見で、北方領土交渉や共同経済活動への影響について「現時点で予断することは控えたい」とだけ述べた。共同経済活動の協議を続けることやサハリン事業の継続が、経済制裁の抜け道とならないよう厳格な対応が求められる。